ブラックグリフィンの郵便屋さん⑫

 

このお話はDDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体とした物語です!

ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓

これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ

 

相変わらずのんびり更新です。アリスです(´;ω;`)

『郵便屋さん』として荷物を運んだり人を運んだりして仕事をしていくリノとクリスですが、今度は思わぬ仕事をするハメになってしまいました…どうぞ!

 

 


の樽

 

 谷を抜け、森に入り、獣に充分気をつけながら進み、老夫婦の休憩を兼ねてリンウッドの村に立ち寄った。
 そこで十五分ほどの休憩を取り、改めて出発。南ハイデル大橋を渡り、左手にテル村を見ながら平原を行き、午後、日も傾き始めた頃、老夫婦を乗せた荷台は無事神殿入り口に辿り着いた。
 ファビオは紙片で商品関係の何かをチェックしながら俺たちの到着を待っていたらしく、ガラガラと荷台の車輪が回る音に素早く顔を上げた。「おー、ご苦労」片手を挙げられて片手を挙げて返す。
 やれやれ、と腰を叩いているおばーちゃんに目線を合わせて少し屈んで「仕事仲間のファビオです。新しい住居の方は彼が手配しました」紙片を振っているファビオを紹介すると、おばーちゃんは「お世話になるねぇ」と頭を下げた。
 ここまではとくに問題なく来られたし、何よりだ。
 不服そうな顔で自分と荷台を繋いでいるロープを振り返っているクリスに、すぐにロープを解いた。「おいで」ちょいちょいと手招きし、大きくなったクリスが寄せる頭からちょっとカッコ悪い革製品の手綱を外し、いい子にできたご褒美の干し肉を、いつもよりちょっと多めにやった。
 ボリボリと干し肉を噛みながらクリスが掘っ立て小屋の方に戻っていくのを止めはしない。
 今日は半日くらい行動を制限してしまったし、いい子でいるなら、どこへ行っても何をしてもクリスの自由だ。

「クリスに頼れるのはここまで」

 ゴブリンでもいたのか、グエ~と声を上げながらドタバタ駆けていくクリスを見ながらファビオが肩を竦めた。「ほいほい。人力でいきますか」おばーちゃんを慎重に荷台から地面に下ろし、こちらも慎重に、横たわったままのおじーちゃんを抱き起こす。

 

 その日の大仕事が終わったとき、すっかり日が暮れていた。
 最後におばーちゃんの商店での買い出しに付き合った俺とファビオは、仕事を終えたその足で酒場に行った。今日はいつもより神経を尖らせる仕事で疲れた。

「トマトパスタだろ、エビの炭火焼き、ワインも赤を一本くれ。グラスは二つな」
「はーい」

 ファビオは寄ってきた店員のナンシーにさっさと注文すると、テーブルに紙片を広げた。「実にイイ感じだ。お前んとこのクリスの評判もそうだが、仕事の実入りがいい」「はぁ」生返事を返してテーブルに頬杖をつく。「荷台で牛に引かせて運ぶより、クリスが運んだ方がずっと速く、荷物に損傷なく確実に届くからなぁ」そりゃあ、そうだ。牛と比べたら、ただ歩いて荷台を引くのもクリスの方が勝ってる。
 それまで一人ニヤニヤしていたファビオがすっと表情を鋭くした。

「で、どうだ。クリスはこのまま続けて使えそうか?」
「………そういう言い方はあまりしてほしくないけど。俺がお願いすれば、仕事はしてくれると思う」

 今頃夕飯をどうにかしているだろうクリスのことを思い浮かべる。嫌そうにしながらも、鞍をつけて、手綱をつけて、俺のために仕事を手伝ってくれているグリフィンの子供。
 ファビオは真面目な顔のまま地図を広げた。「お前が行ったことあるのは、この辺りまでか」地図でキノザとハイデル平原で指を行き来させるファビオに眉を寄せつつ頷く。「それが?」「こっちは行ったことあるか?」グリッテン砦の向こう、バートランド平原を指す指に、緩く頭を振ってノーを示す。
 行ったことがあるか? あるわけがない。
 そっちはオークが多く住み着いているし、ワーグもいるし、危険すぎて、つい先日まで一般人だった俺が行けるような場所じゃない。行こうなんて考えたこともないし、あまり意識に入れたこともない。
 ファビオは『ドラワン』となっている小さな集落を指した。「ここはオークが侵攻してくるときの通り道でな。先日、村から火の手が上がっているのが見えたらしい」「………」昔にオークの手に落ちたのだというガルドノック砦。そこからオークが侵攻してくるなら、確かに、ドラワンは通り道だ。その村から派手に火の手があがったということはつまり、そういうことだ。

「近く、奴らはバートランド平原を通ってグリッテン砦に来るだろう」
「……で?」

 そんな話を新人覚者の俺にしてどうするんだ。俺には一騎当千の力なんてないし、特別なことは何も……。
 いや。あるな。特別なこと。
 俺にはクリスというグリフィンがいる。
 空を飛び、物を運ぶことができ、俺のためなら戦うこともするだろう。
 ファビオはさらに新たな紙片を広げた。…何か、毒、と書いてある。「これは新たに考案された、『武器』だ」毒、と書かれた紙片を叩いてファビオはそう言ってみせた。武器。毒。つまり、侵攻してくるだろうオークに対しての。

「奴らは確かに強い。人間より丈夫さ。力もある。だが、ヤれないわけじゃない」
「………つまり。この『武器』を、クリスに運ばせろっていうのか」
「そうだ。上空から落とすだけでいい」
「……危険な効力があるんだろ? コレ」

 紙片を叩く俺に、ナンシーがにこやかに笑いかけながら「お待たせ~」とパスタと焼き立てのエビを持ってきて、そこでいったん話は中断された。ファビオは一秒でへらへらした笑みを浮かべてさりげなく広げていた紙片を片付け、「待ってました! 腹減ってたんだわ~」と取り皿にパスタを取り分け、さっそくがっついている。
 ファビオのように早く切り替えのできない俺は、微妙に引きつった顔でエビを食いちぎることしかできない。
 確かに、クリスは、物を運ぶことに慣れた。自分にとってよくわからないモノでも、俺が指示すれば掴んで運ぶということをするようになった。
 けど、それは、危険なことをさせたかったわけじゃなく。ただ、クリスが生きて、俺が生きるのに必要なことだからしていただけであって。

「レオも賛成してる」
「、」

 パスタをすすりながら、さりげなく、ファビオが話を続けてきた。この話はファビオの独断じゃなく、覚者のリーダーであるレオも承認済みらしい。

「こっちが手を抜こうが後手に回ろうが、奴さんの動きは変わらない。なら先手を打つべきだ」
「…………」

 拒否権はなさそうだった。
 ……頭の中に、白竜の老成した瞳がある。こっちを見ている気がする。

(覚者になった。不可抗力とはいえ、死にたくないから、生きたいから、死なない存在になった)

 覚者とは。自らに力を与える白竜のモノ。
 オークが白竜の敵なら、戦うのが、覚者の定め。
 ただ剣を振るうのではなく、矢を放つのではなく。自分にできる戦い方をして、白竜のためになる。それが覚者だというならば。
 わかったよ、と絞り出した俺の背中をファビオが叩く。どこか労わるように。「嫌な役割させてすまん」と言われると、俺じゃなく、クリスに申し訳がないなと思う。クリスは何も知らないで毒を運ぶのだ。俺はクリスを利用して、毒を撒いて、命を奪うのだ……。

 

 赤ワインのボトルの中身をラッパ飲みし、ふらつく足で神殿の入り口に立つと、見張り番だろう兵士の人の助けを求めるような視線を受けた。兵士の人は「どうも」とこっちに頭を下げたあと、階段の下を見て参った顔をしている。
 ボトルにコルク栓をねじ込んで鞄に押し込みながら目をやると、階段の下には、鞍をつけたままのクリスがおすわりしてこっちを見上げていた。
 いつもより遅くなった俺が気になってここまで来たんだろう。『ここから先には入ったらダメだ』と教えた俺の言いつけを守って、階段からこちらには来ず、そこでじっと俺のことを待っていたのだ。

「クリス」

 闇夜に紛れ、かがり火でかすかに照らされているだけの黒いグリフィンは、何も知らない人間にとっては猛獣だ。
 けど、名前をつけ、その出自を知り、抱き上げたあの日を憶えている俺には、そこにいるのは子供で、家族でしかなかった。
 もつれる足で階段を下りていく俺を尻尾を振って待っている子供がいる。
 抱きつけばあたたかく、弾力があり、生きている体がある。「グぅ」力加減されてこすりつけられる頭から獣の臭いがする。また狼でも狩ってきたのかもしれない。

「帰ろう」
「ぐぇ」

 ふらふら歩き出す俺にのっそりとついてくるクリスを、利用して。毒を撒く。
 オークの数を減らす。それは白竜のためになること。
 弱った白竜のため、どんな手も尽くすのが覚者だとするならば。

「お前が喋れたらなぁ」

 すっかり俺の背を越えた位置にあるクリスの頭を見上げて思わずそう漏らすと、クリスが首を傾げた。
 もし、お前が喋ることができたら。そうしたら、その意志を知れるのに。
 お前が俺とどうしたいのか、この先どうやって生きていきたいのか、知りたかった。

「ごめんな」
「グぅ」
「ほんと、ごめん」

 体裁は整ってる。『白竜の敵たるオークを討つ』……それは覚者としてすべきことだ。どこにも罪悪感を感じる必要はない。
 だけど、無垢なお前を利用することになる。
 掘っ立て小屋についたら、まずクリスの背から鞍を外し、背中の乱れた毛並みを整えてやった。鞍が取れてスッキリしたんだろう、ぶるぶると体を振るわせるクリスから離れ、小屋の隅にある毛布を引きずってくる。

「今日はここで寝る」

 それは俺を信じているクリスを利用しなくてはならないことへの罪悪感からだったが、何も知らないクリスは目をキラキラさせて嬉しそうだ。
 すっかり大きくなったクリスに囲われるようにして、もふっとした腹に背中を預けて毛布を被る。「…明日は水浴びだなぁ」獣臭い頭を寄せてくるクリスを撫でて目を閉じる。酒のせいか、とても、眠い…。

 

 


 

 

『覚者とは……』を考えながら生きてるファビオは、ゲーム中ではそこまで戦いに加わってる印象がなかったので、「彼はこういうの得意そうだ…」という個人的偏見のもとに書きました( ˘ω˘ )

設置方法や安全面のリスクが高く見送られてきた『毒を散布する』という作戦が、クリスという魔獣鳥を手に入れたことで、リノが知らないうちに計画が承認され、やるしかないという展開に……

どうなる、次回( ˘ω˘ )

 

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