アニリン⑤

2019年2月8日

 

このお話は、DDONのフィンダム大陸に出てくる敵グリーンガーディアンと少女を主体にしたお話です!

グリーンガーディアンはこんな魔物です↓

今回で5話めなので、「まだ前の話読んでない!」という方は以下からどうぞ↓

 

もう少し続けていく予定です。もうちょこっと、お付き合いください(´・ω・`)

 


め上げてくれ、まっさらなその

 

 アニリンのいた村、その近くにあるピクシーキャンプが『腐った』と知ったその日。
 この辺りには気を許せる場所などなかったが、状況の把握のため、アニリンを大きな木の上にやったオレは、サウザネル森林へ向かった。
 途中、きのこのようなものを頭から生やして胞子を吹き出しているピクシーどもを見かけたが、息を潜め、足音を潜めてやり過ごした。
 脳、という、生物が生物として生きるのに欠かせないモノがあるはずの頭部から生えるモノ。
 頭部から生える…つまるところ、その生物を支配している棘のような、茨のようなソレは、何度見ても気味が悪い。
 オレでそう感じるのだ。同じ種族の末路を見たアニリンは、もっとショックを受けたに違いない。

(オレだって……かつての仲間が、あのようなことになったら。冷静でいられる自信はない)

 息を潜め、足音を潜めながら、かつては群れで狩りにくることもあった森林の入り口を見上げる。
 もともと鬱蒼としていた場所だったが…今はそれが気味の悪さを助長していた。
 かつては鹿やウサギの宝庫だった森だ。野生動物は無意味に騒ぐこともないが……だが、この静寂はなんだろうか? まるで生気を感じられない。
 充分に警戒しながら巨大な幹のそばを通り過ぎ、森林へと入っていく。
 獣道を抜けた先。広い、といえる場所に出たときに鼻をついたのは、腐った、においだ。鼻がひん曲がるような酷いにおい。
 目元に皺を寄せながら、手短な茂みに身を寄せようとして、反射的に飛び上がって体を引いた。茂みは明らかに血のようなものを被って汚れており、半分、腐っていた。
 薄暗い森の中で目を凝らせば……あの木の幹も、そこの草も、おかしな色をしている。まるで毒に染まったかのような、草木としてはありえない色だ。
 もしやこの森も…。そんな予感を抱きつつ、広場へと視線を戻し、目を凝らす。
 そこにはいつも獲物を取り合う相手、白い狼が群れをなしていた。狼はゴブリンを取り囲んでおり、どうやら、狩りの最中らしい。
 狼どもの体にイバラのような胞子を撒き散らす核があり、囲まれているゴブリンにもそれがあるとわかったとき、オレは速やかにサウザネル森林を…いや、侵林を、抜け出した。
 もはやこの森は手遅れだ。
 入り口からああなのだから、奥へ進んでも、待っているのは腐った動物と腐った森だけ。
 アニリンを連れて、急ぎ、この地域を離れなくては。
 オレはまだいい。草木と共存できるようにと苔を生やし、角を生やしたオレたちは、純粋な動物より、まだこの毒に抵抗ができる。
 だが、アニリンには無理だ。最近は咳き込まないが、もともと体が弱いのだ。この毒はよくない。アニリンを連れて早く離脱しよう。

 

 


 

 

 このようにして、このフィンダムに、毒が蔓延するようになった。
 そのことはフィンダムに生きる多くのものが知ることとなり、人も、動物も、魔物も、正気を保っているものは、毒を避けるようになった。
 唯一道具を使う人間だけは、フィンダムを覆いつつあるこの毒に対抗しようと策を練っているが、具体案は未だ出ないままだ。
 オレとアニリンは、毒の影響が軽微である『エラン水林』『ファーラナ平原』を中心に住処を探した。『モロー樹林』と『キンガル峡谷』は、もう手遅れだといえるほどに毒による侵蝕が進んでいたからだ。

「ねぇ、精霊竜は何をしてるの? フィンダムがピンチなのに……こういうときこそ、竜の出番じゃないの?」

 アニリンが睨むようにして見上げているのは、精霊竜の象徴、この大陸のどこからでも見られる巨大すぎる大樹だ。
 オレは唸りながら「たたかって、いる」とぼやく。
 アニリンが言いたいこともわかるが、精霊竜とてバカではない。もとは人だったのだ。知恵がある。

(フィンダムの半分があの毒に覆われている現状を考えるなら…おそらく、竜はもう……)

 この大陸は、竜によって生かされている。成り立っている。ならば、逆を言えば、この大陸の状態は、竜の状態であるともいえる。
 だが、それをアニリンに告げるのは、やめた。
 竜まであの毒に負けたとなれば…このフィンダムに未来はない、ということだ。そんなこと認めたくはないし、知りたくもないだろう。

(しかし。あの毒にはそんなに強い力があるのだろうか? 竜を侵すような)

 竜は、このフィンダムの頂点ともいえる存在だ。竜が敵わない毒など、あるとは思えないのだが。
 大樹を眺めて考えるオレに、アニリンがすっくと立ち上がる。「帰ろ」と言って歩き出すから、オレも立ち上がり、アニリンの背中に続いた。
 毒に注意しながら過ぎ去る日々は、平和なようでいて、その端々に暗い影を落とす。

 

 毒で、村の一つがまた滅んだ。
 毒で、ゴブリンなどの魔物が攻撃的になった。
 毒で、水も木々も腐り、生活は苦しくなった。
 毒で、精霊竜も、おかしくなった。

 

 明るい話など一つとして聞かない生活が続き……そして、ついに、望まない日がやってきた。
 かつてオレがいたあの群れが、生まれてから追放されるまで育ったあの群れが、毒に侵され、人を襲ったのだ。
 運が悪いことに、そのときアニリンは人に必要な物資の補給のために村に出ていた。村人を警戒させないようにと、武器ももたずに。

「ァニリン!」

 オレは、体のそこかしこから胞子を散らす核を生やしたリーダーだったモノを見たとき、周囲のことなど考えずに叫んだ。
 アニリンの反応は早い。人里に行くときは大人しく茂みでじっとしているオレが、村の中に飛び込み、大声を上げたのだ。何かあったと瞬時に悟り、手に入れたんだろう鍋や食器を放り出して駆け寄ってくる。
 かつての群れは、大勢で見張りの男二人に飛びかかり、見事な連携で即座に沈黙させた。
 先頭を歩くのはかつてリーダーと呼んだ、立派な角を持つグリーンガーディアン。
 しかし、その瞳に理性はなく、舌をダラリと出したまま忙しなく周囲に目を向けている。
 遅れて、悲鳴。
 村の人間は、ここにいたってようやく事態を知ったのだ。

「…、あの子たちも」

 オレと同じ種族だからだろう。アニリンが悔しそうに唇を噛み締め、オレの体にくくりつけていた弓と矢筒を外して身につけた。オレに遠慮しているのか、人を襲っているグリーンガーディアンに向けて攻撃しようとはしない。武器を手にした他の人間が怒り狂いながら矢を放つのを冷静に観察している。
 ……本音を言うならば、戦いたくはない。あんな姿になろうと、かつての同胞だ。
 だが、この世界のことを考えるなら、アレは処分すべきだ、と知っている。放置しておけば、毒の被害は広まるばかりだ。
 しかし、状況はよくない。アニリンに駆け寄ったオレというグリーンガーディアンを見て、『オレが仲間を呼んだのではないか』と話している奴らがいる。
 この村は排他的だ。よそ者で物資の補給にきたアニリンを疑っている。早く離脱しなければ、アニリンまで攻撃される恐れがある。
 オレは、アニリンに「のれ」と言った。「…うん」言いたいことがあったのだろうが、アニリンはオレに従った。だから、オレは、かつての同胞が唸り、吠えるその村から、脱兎のごとく逃げ出した。
 背後からは、怒号と悲鳴が聞こえていた。「逃げたぞ! あいつらだ! あいつらがコレを呼んだんだ!」「追えぇ! 逃がすなー!」ヒュン、と風を切って飛んでくる矢に当たらぬよう、ジグザグに、草むらに突っ込みながら、逃げた。
 後をつけられていることを考え、どうでもいい場所に寄り道し、遠回りをし、逃げ帰った先は今住んでいるねぐらだ。
 フィンダムが見下ろせるような高い場所に陣取った、今のところ誰にも見つかっていない、唯一気を許せる場所。
 アニリンは弓と矢筒を立てかけると、ポケットから果物を取り出した。「はい」小さいが、オレの好きなりんごだ。「…いっこ、か?」「うん。あげたくて、買ったの」そうか、とぼやいて、ありがたくりんごに歯を立てる。
 …これは、アニリンなりの気遣いだろう。
 アニリンは、アレらがオレのいた群れであるとは知らない。ただ、『同じ種族が毒に侵された』のを目撃し、オレがショックを受けていると思ったのだろう。自分がそうであったように。だから、気遣ってくれているのだ。
 シャクシャクとした食感の小さなりんごを飲み下す。
 一番うまいと感じるのは果物だ。オレが植物を取り込んだ生物のせいか、最近は果物が一番うまく感じる。
 アニリンの気遣いを感じてか、好物のりんごを食べたためか。少し落ち着くことができた。
 脳裏にはいまだかつての同胞たちがチラついているが、ああなってしまってはもう仕方がない、と考える。
 仕方がない。そう、仕方がないのだ。彼らは生きていてはならない。毒から救えるものならそうしたいが、竜で敵わない毒だ。この大陸に生きるもの全員、きっと誰も敵わない。悔しいことだが……それが、現実なのだろう。

(ああ、そうだ。仕方がない。次に会ったときは、群れの数を減らさなくては。…オレとアニリンのために)

 いつまでも、こうして地に伏しているわけにもいかない。ここも充分警戒しなくては。まずは、見回りを。
 そう思い、立ち上がろうとしたときだ。ジャリ、と砂を踏みしめる音がして、反射で振り返る。
 アニリンでもない。オレでもない。第三者が立てた音。
 そこにはよだれを垂らしながら焦点の合わない眼でこちらを見ているリーダーだったモノがいた。
 示し合わせる必要もなく、アニリンは弓を手に取り、オレは、リーダーだったモノに飛びかかった。

(そうだ。リーダーはオレをよく知っている。何せ、群れを把握していたのだから。オレのニオイをリーダーは覚えている。それを追った!)

 まっすぐねぐらには向かわなかった。だが、汚れた川を通ることもまたしなかった。そこでニオイを消すべきだった。オレは、まんまとこのねぐらにリーダーを連れてきた…!
 甘い自分に嫌気がさしたが、今やることは決まっている。
 リーダーを撃退し、遠ざけるか、息の根を止めたあと、アニリンを逃がす。
 オレはあの群れからニオイで追われる可能性がある。水浴びでもしてニオイを消しでもしない限り、アニリンと合流はできない。
 とにかく、リーダーをやらなくては。
 ガン、と角同士をぶつけ合う。その度にリーダーの頭から生えた、二本の角以外の角から、核から、胞子が舞う。これを吸うのは体によくない。だが、二本足で立つ生き物でないオレは、リーダーと角をぶつけ合って戦うよりない。
 矢筒から矢を引き抜き構えたアニリンが、リーダーに向けて矢を射った。
 どす、と鈍い音を立てて矢がリーダーの肋骨に突き刺さったが、肺にダメージを与えているだろう一撃にもリーダーは無関心だ。その動きは鈍らず、オレに突進を仕掛けてくる。
 片方の角では不利だ、と知りながら、なんとか受け流したが、二度目は失敗した。受けきれなかったリーダーの角の片方がオレの目を抉る。
 視界が飛ぶほどの痛み。
 歯を食いしばって痛みに耐え、気力で、リーダーを押し返して転倒させる。「あにりん」「うんっ」彼女の矢がリーダーの首を射抜く。たいていの生き物に致命傷を負わせる一発だ。
 だが、すでに普通の生き物ではなくなっているリーダーは、眼球がこぼれるかと思うほどに目を見開き、アニリンに、向かおうとした。
 だから、オレは、リーダーの前脚に喰らいついて引きちぎった。
 それでも止まらないリーダーは、バランスを崩しながらもアニリンに激突し、彼女の腕に喰らいついて、華奢で細いその腕を、

        

 飛び散る、赤。
 人間の言葉でも、我々の言葉でもない、怒号と悲鳴を上げながら、オレはリーダーに喰らいつき、その首を全力でへし折った。

 


 

あれ、おかしいな。幸せな結末はどこへ行ったのか…迷子になったぞ(´・ω・`)
次か、その次辺りで最後となりそうです
果たして、一人と一匹は幸せになれるのか…!?

 

 

 

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