ブラックグリフィンの郵便屋さん⑤

2019年7月19日

 

だいぶお久しぶりとなってしまいました、アリスです(;´Д`)
小説最新話いきたいと思います!

このお話はDDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓

これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ

 

郵便屋さん要素を登場させたい!(

 


この雨が上がったら

 

 ジンゲンにやってきて一ヶ月くらいがたった。
 クリスは人の建物に慣れたみたいで、今ではあの薄暗い小堂を怖がらずに出入りするようになった。
 小堂のそばには川があって、そこは魚とリザードマンが豊富だ。山に入れば動物がいるし、クリスのご飯にはしばらく困らずにすむ。
 厄介なのは、夜になると現れるアンデッド系の魔物。それから、鳥のように空を羽ばたきながら歌う人面の魔物、ハーピー。ジンゲンにはリンウッドよりも面倒な魔物が多い。
 だから、行動するのは決まって早朝。
 朝日が顔を出し、弱い陽射しで大地を照らし、墓場から来た魔物が土の中に帰っていく頃合いがベスト。その時間なら人に遭遇せず、なおかつ魔物も避けて小堂を出入りできる。
 ある日の早朝、川で魚と、ついでにリザードマンを狩っていると、ひょいひょいとした軽い足取りで男が一人やってきた。
 装いは軽装備。腰にはダガーのような抜き身の短剣。同業者…だろうか。
 クリスのこともあり、周囲には気を遣ってたにもかかわらず気付けなかった男の接近に、尻尾を切って倒れたところだったリザードマンから離れて男と距離を取る。あとは喉を掻き切れば、隠れてるクリスにやれたのに。

「よぉ、精が出るなぁ」
「…どうも」

 それは、初対面の、川の魚とリザードマン狩りをしている相手にかける言葉かな。こんな早朝に、お互いに、さ。
 男は慣れた様子で背負っている籠を下ろすと、中からツボを取り出して川の水を汲み始める。ついで、という感じで素手で掴んだ魚をツボに突っ込んだ。
 尻尾を切って動きが鈍くなっているリザードマンがようやく起き上がり、何か喚きながら、逃げるように川に入っていく。
 ああ、もったいない…。クリスの夜ご飯が逃げる。

「オタクさー、ジンゲンの人だっけ?」

 ツボの水に手掴みの魚を入れながらの言葉に、俺は慎重に答えた。「ええ、まぁ」ジンゲンの村には住んでないけど、近くには住んでいるから嘘じゃない。
 ふーん、とぼやいた男が水と魚の入ったツボを籠に入れ、その籠を背負った。「じゃ、オレはこれで」ひらひらと後ろ手を振った相手は、クリスが隠れている崖の向こうに目をやり……明らかに気付いているふうだったけど、何も言わず、水と魚の入ったツボを背負っているにしては軽い足取りで坂道を登っていった。

 

 


 

 

 次にその男を見かけたのは、土砂降りの雨の日だった。
 リザードマンの鱗で仕上げた簡易の雨よけの外套を着て、ぬかるんで滑る地面に石を撒いていると「お? オタクあんときの」よっ、と軽い感じで手を挙げられた。
 顔を叩く雨粒に片目を閉じて、顔にはりつく髪を指で払う。「何してんですか、この雨の中」「いやいやお互い様だろ。そっちこそ何してるわけ、こんな雨の中」「…滑りそうだと思ったんで、石撒いてるんですよ」ジンゲンの川にかかる天然の橋である地面を指すと、男は合点がいったとばかりに頷く。「同じトコに目つけるヤツがいるとはな」男の方も、持参したらしい石をバラバラと撒いて、ブーツの底で踏みつけだした。雨を含んで滑りやすくなった土のせいで、この天然の橋から滑落する誰かが出ないように。
 実際、三日続きのこの雨のせいで、増水した川の様子を見に来ていた子供がここから落ちた。
 そのとき偶然外に出ていた俺とクリスは、子供が川に激突する前に救い出すことができたけど…そのために始終川を見張ってることもできない。だから、これは苦肉の策。
 あのとき、子供は恐怖からか意識を失っていた。クリスに乗って助け出す、なんてのはだからこそできたことだ。クリスの存在はジンゲンの村から隠し通さないとならない。

「ここ、柵とか作らないんですか。危ないでしょう」

 ぼやくように口にした言葉を、男はしっかり拾い上げる。「何度も提案はしてるんだけどな。村にはそんな人手はないとさ」「…なるほど」ジンゲンに住んでいる人間をぼんやりと思い浮かべる。…確かに、余分なことをできるような人手はなさそうだ。
 俺に仕事を依頼した老夫婦のことをぼんやり思い出しながら、元気だろうか、と思う。俺がクリスを抱え込んでからは、神殿であの手の依頼を引き受けることがなくなった。神殿からは遠いジンゲンまで来て仕事をする物好きが俺以外にもいればいいけど。
 二人で石を撒き終わり、雨で流されないようなるべくブーツの底で踏みつけて、一息。

「オタクさ、ジンゲンの村に住んでないっしょ」

 確信している、という声でやんわりと言われ、さてどう切り上げようか、と考えていた思考が止まる。…雨の音が、うるさい。「それが何か?」当たり障りのない言葉で逃げよう試みる。けど、逃げようとする俺を遮るように、男は一点、叩きつける雨で見にくい景色の中で、確かに小堂を指した。俺とクリスの住処となっている場所を。

「実はオレも村に住んでない変わり者なんだけどさ。オレの住んでる場所から、オタクらが出入りしてる小堂、よく見えるんだよね。オタク、黒いグリフィンと一緒だろ?
 おまけに昨日、ここから滑って落ちたガキをグリフィンに乗って助けた。違う?」
「………見てたんですか。目がいいんですね」
「おう。シーカーやってるからな。視力には自信あるぜ」

 外套の下で腰のダガーに手をやる。
 会話の流れによっては、人間相手にこれを抜かないとならない。そんな俺を知ってか知らずか、男は小堂を指していた指で顔の雨粒を払った。

「いやね、最初は見間違いかと思ったんだよ。そんなわけないか、ってな。けど観察するうち、この目が正しいとわかったわけだ。人とグリフィンが共存している」
「…それで?」

 ダガーのグリップを握る。手が濡れてるせいか、握っているはずなのに滑る。
 男は勢いよくこっちに顔を向けると、俺がダガーを抜くより早くパチッと両手を合わせて頭を下げた。

「ちょーっとオレに協力して欲しいんだよね! このとおり!」
「…は?」
「オレ一人じゃ荷が重い仕事があってさ~。グリフィンをお供にしてるオタクに手伝って欲しいんだよね~」
「…はぁ……」

 とりあえず、危惧している流れにはならないようだったから、グリップから手を滑らせて離した。
 男は、「とりあえず雨宿りしながらいこうや」とすぐそこのジンゲンの村を指した。俺は渋々彼に続いて歩き、チラリと小堂を振り返る。…大人しくしてるんだぞ、クリス。

 

 ジンゲンの風啼き亭に案内され、「ちーっす」と軽い挨拶で中に入っていく男に続いて、小さな建物に入る。この雨のせいか、小さい宿なのに人がまぁまぁいた。

「おう、チェスターじゃねぇか。お前が来るなんて珍しいな」

 男が近づいてきて、チェスター、という名前らしい軽装備の男の背中をバンと叩いた。「まぁなー。たまには酒も飲みたいしな!」座席が足りず、急遽用意した、という感じの木箱のテーブルを叩くチェスター。ここに来い、ってか。
 椅子の数が足りず立ち飲み風になっているそこで、丈夫じゃなさそうな木箱には体重を預けるのはやめて、石壁に背中を預ける。
 …ワイワイガヤガヤとうるさい。こういう場所は苦手だ。

「それで、仕事って?」
「おう、ちょっと待て、まずは酒だ酒。グレイ、ジョッキ二つ頼む!」
「ウチは酒場じゃないぞ。まったく…」
「今日みたいな雨の日は酒場みたいなもんだろうがよ」

 グレイ、というらしい老人が肩を竦めて木製のジョッキを用意し始める。
 そこで、そういえば、と今頃気付いた顔でチェスターがこっちを見た。「そういや名乗ってなかったな。オレはチェスター。シーカーしてる」「…リノです」今は何をしているともいえないから(強いて言うなら育児?)名前だけ名乗っておいた。
 それまでヘラヘラしていたチェスターがスッと表情を変えた。よく通る声を潜めて「で、だ、リノ。お前に協力してほしいことってのは、崖の歌姫のことだ」「…?」崖の、歌姫? 聞いたことがない。
 ジンゲンに住んでいるもののジンゲンの知識を持っていない俺に、チェスターは教えてくれた。
 ダウ渓谷の東部、もっとも高いその崖に、石像の並ぶ奇妙な空間があること。昔ジンゲンに甚大な被害を出したスフィンクス『妖歌のローレライ』がそこに再び現れたこと。この雨で今は姿をくらませているが、ハーピーを手先として操るあのスフィンクスが戻れば、村に被害が出るのもそう遠い話ではないということ…。

「厄介なのは、相手が飛ぶって点だ。
 オレはシーカーだから飛ぶ相手にもついていくが、世の中みんながシーカーで、そうできるわけじゃない。地上から弓での援護って手もあるが、それがオレに刺さってちゃ意味もない。
 そこで、歌姫と張り合えそうなリノのとこの黒いのの力を借りたいわけなんだよ」
「………なるほど」

 グレイが持ってきたジョッキの酒をちびちび飲みながら、クリスのことを考える。
 …クリスはまだ子供だ。昔、ジンゲンに甚大な被害を出したという実力あるスフィンクスに敵うとは思えない。
 相手は大人、クリスは子供。子供と大人が喧嘩したらどうなるのかは目に見えている。
 ちびちび酒を口に含みながら、「アイツはまだ子供なんです。そんな歴戦の魔物みたいなヤツと対等に渡り合えるとは思えない」「隙を作ってくれりゃいい。首を切ればどんな相手だって致命傷になる。オタクの黒いので歌姫の気を引いて、その隙にオレが歌姫に飛び乗る。そんで首を切る」これならいけるさ、と拳を握るチェスター。
 確かに、チェスター単体で挑むより、勝算は上がるだろう。
 クリスも大きくなった。翼を広げて威嚇して飛びかかりでもすれば、スフィンクスだって無視はできないだろう。怪我をする危険は伴うが、隙は作れる。

「……見返りは?」
「うん?」
「仕事なんでしょう。アンタが受け持った。こっちには手伝う義理がない」
「そうだなぁ…。ま、アンタらの秘密を守るってのを引き合いに出してもいいんだが」

 ジンゲンという村の近くに無許可で魔物と住んでいる俺、を暗に示しているチェスターを睨みつける。…脅すってことか。
 睨む俺にチェスターは大げさに肩を竦めてみせる。「いやいや、命張ってもらうのにそれはさすがに卑怯ってもんだろ。だから、こういう条件でどうだ? アンタらが村人に認知されても大丈夫なように、オレが味方につくってのは」それでそんなことを言うチェスターに、酒が喉に詰まった。ジョッキを離して咳き込む。
 …随分、簡単に言ってくれるなぁ。

(チェスターって男は、確かに、テルの人間とは違う。クリスって魔物と生活する俺とも普通に会話する。この男には戦う術があるから、クリスが恐ろしいものには見えないのかもしれない。でも…村の人は……)

 テルでのことを思い出すと、俺たちのことをカミングアウトするのは賢いことだとは思えなかった。このまま、あの薄暗い小堂でひっそりと暮らすことが望ましいんじゃないかとも思う。
 それでも…きっと、いつまでも隠し通せるものでないことも、わかってる。
 そういった事態になったとき、頼れるツテがあるのとないのとじゃ、大違いだろう。
 色々なことをぐちゃぐちゃと考えて……「やれるだけ、やってみる」ぼそっとぼやくようにこぼすと、チェスターがパッと表情を変えた。「そうか! やってくれるか! 助かるぜリノ!」それで馴れ馴れしく肩を組まれた。…暑苦しい。
 そういえば、こんな空気、久しぶりだな。人間と過ごすって、こういう感じだっけ。長いことクリスとだけ一緒にいたから、人との距離感とか、もうよくわからないや。
 窓の外は相変わらずの土砂降りの雨。
 ……この雨が上がったら。俺はクリスと一緒に大仕事に挑む。

 

 


 

 

郵便屋さん要素が(以下略
気付いたらシーカーの師チェスターを出してましたが、彼の性格その他ちょっとうる憶えなので違ってたら申し訳ないです…

小ネタ

・チェスターのいる小屋からは渓谷の小堂がよく見えるよ!

誰かにとって参考になるかもしれない小ネタでした( ˘ω˘ )

 

 

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