ブラックグリフィンの郵便屋さん②

2019年4月27日

 

このお話は、DDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体としたお話です!

ブラックグリフィンとはこんな魔物です↓

一話めがまだの方はこちらからどうぞ

 

何話か続けていく予定です!

 


リノクリス

 

 ボルド鉱山の山頂で親グリフィンに捨てられていった黒い仔グリフィン。
 一般的なグリフィンと色が違う、おまけに声もちょっと変。
 そんなグリフィンを拾ったのは……『親に捨てられた』という境遇が自分と重なったからかもしれない。
 家族、あるいは親戚という後ろ盾がない俺に、子供とはいえグリフィンを育てるのはかなりの負担になるだろうと思う。食事の調達もそうだし、住む場所だってそうだ。それはわかってる。
 そういった苦難を考えて、それでも拾い上げる他に、俺が取る行動はなかったと思う。
 目の前を元気に飛び跳ねながら駆けていく黒い体毛のグリフィンに「クリス」と声をかける。無視された。石を転がしながら追っている。そんなに石を追いかけるのが面白いのか。「こらクリス。クーリース」何度か呼びかけると、グリフィン、もとい、クリスはようやく足を止めて「グワ?」とこっちを振り返った。
 オスなのかメスなのか、グリフィンの雌雄の違いなんてわからない俺は、オスでもメスでも合いそうな名前を一晩かけて考えたのだ。それがクリス。
 まだ何度か呼ばないとわからないみたいだが、そのうち、クリスって響きが自分のことを呼んでいるって憶えるだろう。

「あんまり離れるなよ。野生だと勘違いされる」
「グゥ?」

 グリフィンは、そのやわらかい羽毛が枕や布団の材料として使われたり、爪や嘴が工芸品になったりする。肉は言うまでもなく食用になる。
 とくに『子供のグリフィンが親なしでうろついてる』なんてなったら、ハンターにでも見つかれば問答無用で矢を放たれるだろう。子供の羽も肉もやわらかくて癖がなく、誰にでも好まれる、それでいて貴重な『金になるもの』だから。
 クリスの衣食住の心配をしなきゃならないのはもちろんとして、そういった魔の手からもクリスを保護しないとならない。
 不思議と後悔はないとはいえ、俺は自分の人生にかなりのハードルを自分で設置してしまった。
 来い来いと手招きすると、クリスがドタドタ駆け戻ってきた。真っ黒な毛並みの首をじっと見つめる。

(…首輪とか?)

 家畜の牛はだいたい首輪をしてるか、耳輪をしてる。同じようにすれば…家畜って言い方は好きじゃないが、人のモノだ、ってことは伝わりそうだ。
 首輪をしたクリスを鎖で繋いで持っている自分をぼんやり想像した。
 それは、ないなぁ。クリスがかわいそうだ。そうしていればクリスは俺の保護下にあるって言えそうだけど。
 どうするかと考えていると、落ち着きのない幼さであるクリスはまたそのへんの石を転がして遊び始めた。あっという間に遠くへ行く。フラフラと、糸の切れた凧みたいに。
 子供ってのはあんなふうに、ちょっと目を離せばどこかに行って、下手をすれば、そのまま帰ってこない。本当、自由気ままで、風にだってさらわれる、頼りない凧だ。

「クーリースー!」

 手でメガホンを作ってあっという間に走り去ったクリスを呼ぶと、呼ばれて初めて離れたことに気付いたのか、「グェ~」と間延びした声を上げながらドタドタこっちに戻ってくる。石を転がしながら。…器用なヤツだ。
 あのあと、俺とクリスは下山後にキノザの空き小屋で一泊し、温泉地をあとにして、ジンゲンでばーちゃんの仕事をこなして(またおまけでお小遣いをくれた。あの老夫婦には感謝だ)、今は二年住んでいるテルの村に向けて徒歩で山道を移動中だ。
 クリスという存在で道行く一般人を驚かせないよう、クリスと俺は山道を離れた岩山を歩いている。
 牛用の首輪に似たものをどこで調達しようかと考えていると、唐突に、クリスが石を追うのをやめた。唐突に、飽きたらしい。今度はそのへんの草を口にしてはぺっと吐き出し始めた。…忙しいヤツだなぁ。

 

 人と争わない物好きなゴブリン(うまく交渉すれば物品交換とかも可能らしい)が住んでいるという洞窟の辺りを抜けると、山肌には緑が目立ち始め、あっという間に鬱蒼とした森になる。
 リンウッドを離れるとすぐ緑がなくなるのはおかしくないか、と俺なんかは思うが、曰く、白竜の加護が届かないから、キノザ辺りは緑が少ない…らしい。
 生まれてからあまり緑を見たことがなかったのか、立派な草木を前にしてクリスが「グワァ、グワー」と花の周りを飛び跳ねて騒いだ。嬉しい…んだろうか。
 放っておくと飽きるまでピョンピョンバサバサ飛び跳ねているだろうクリスの先を行き、「クーリースー」と呼ぶと、離れていることに気付いて慌てたように駆けてきた。

「グェ」
「日が暮れる前に森を抜けるんだ。急ぐぞ」

 クリスがあっちこっち寄り道するもんだから、もう少しで夕方だ。早くしないと夜の魔物…首を切ればいいゴブリンとは違い、戦闘不能にするのに手のかかるスケルトン系の魔物が出てくる。魔法の使えない俺は、できればあいつらとの遭遇は避けたいのだ。刃の通じる肉のある相手がいい。だから、早く森を抜けて、テルに帰ろう。

 

 


 

 

 ようやく、リンウッドの森を抜け、見慣れた平野にポツンとある村が見えてきた…。その頃にはすっかり日は落ち、辺りは暗くなっていた。
 これだけ暗いと、ランタンがないとクリスの姿は完全に夜に馴染んでいた。「クリス?」時々姿を見失うので声に出して呼ぶ。「グワァ」思いの外すぐそばから声がした。いるか。よかった。
 さて、問題はここからだ。
 クリスのことを、村にどう説明するか。
 この二年、黒ブドウ亭の一室…もともと倉庫で、半分以上が樽や箱その他で埋まっている、部屋とは言い難いそこで寝起きをしている。倉庫同然のそこに気持ちばかりのベッドを入れただけの部屋だからこその格安価格、というヤツで。
 そこにいられれば問題ないさ。だけど、現実はそうそううまくいかないってことはわかってる。
 何せ、グリフィンだ。子供であってもグリフィンだ。
 大人の縄張りに踏み入れば、人間だって襲うのがグリフィンだ。そして、狩ったグリフィンは人にとって様々な利益を生む。…それが人がグリフィンに対して思うだいたいのことだろう。
 待ってろ、と言ってもどうせわからず、聞きもしないだろうクリスを連れてテルに入ると、気難しい年齢と性格のマイラが「ヒッ」と引きつった声を上げて後ずさった。ただでさえ皺の多い顔がさらにしわくちゃだ。
 テルの家々の軒先に下がるランタンのほのかな光。その光に照らされて、クリスの真っ黒な姿がぼんやりと見えたらしい。

「あんたっ、リノ! なんてもの連れてるんだいっ!」
「あー…」
「大変だよ誰かっ、リノが魔物を連れてる! 誰かっ!」

 …マイラがヒステリックに叫ぶもんだから、クリスがオロオロしている。その首根っこの毛を掴んでるものの、怯えて本気で走り出されたら、止められる気はしない。
 マイラが騒いだことで、井戸前の広場にはあっという間に人が集まった。黒ブドウ亭の宿主のフェデルコ、この辺りを仕切っているアルフレドの姿もある。
 ダメだろうなぁと思いつつ、「あのー、アルフレド」と、このテルでも代表になっている男のことを呼んだ。アルフレドは普段から穏やかな口調の男だが、今は眉間に皺のある厳しい顔をしている。

「リノ。どういうつもりかな?」
「このグリフィン、親に捨てられたみたいで…。それで俺が保護したんですけど。その、この村で…」
「バカ言うんじゃないよ! 親鳥でもきたらどうするつもりだいっ」

 マイラがまたヒステリック気味に騒ぐ。マイラにつられたのか、疲れたが口調でいつも疲れた顔をしているノーマンまで「そうだ、グリフィンなんて、魔物なんて、襲われたらたまったもんじゃない」と口をそろえる。
 期待はほんの少ししかしていなかった。だから切り上げることにする。これ以上恐怖や恐れを刺激する前に。
 もともと荷物も残してない。払った金を考えればまだあの部屋にいられたはずだが、こうなったら仕方ないさ。
 世間の厳しさ。知っているそれに背中から刺されるような気持ちで、テルの村を逃げ出すことにした。これ以上クリスを刺激したくもない。
 背中を押すまでもなく、クリスは俺が歩くとついてきた。

「すまないね」

 村を去る前、聞こえた声は、アルフレドのものだったように思う。
 ……クリスは始終オロオロしていた。怯えてはいない。誰かが剣を抜いたり桑を振り上げたりする前に逃げたからこそ、クリスは人間を『怖い』と思わずにすんだんだろう。

「グワー?」
「……うん。知ってた。から、大丈夫」

 テルに馴染み始めていた。でも、こんな簡単に壊れる。それが世界で世間だ。
 人付き合いなんて最低限しかしてない俺には信頼もなかった。あそこにいられないのは仕方がない。
 ポケットに押し込んであった地図を取り出す。このあたりで、あまり人気がなく、泊まれそうな場所は、っと。

「…仕方ないな。今夜はここで休もう」

 トン、と地図の一点を叩く。
 ちょっと遠回りして、村人を刺激しないようにこっそりと、テル村近くの廃屋へ行く。
 ここには地下室がある。崩れるかもしれないから、と村では立ち入りを禁止されてる場所だ。
 なるべく遠回りしながら廃屋を目指し、途中で遭遇した狼はダガーを首に突き立てて絶命させた。噛まれた腕には鉄板が仕込んであるから無傷だ。いつもの常套手段。わざとスキを見せて飛びかからせて、鉄板を仕込んだ腕を噛んだ瞬間仕留める。
 狼を引きずりながら、暗闇の中今にも崩れそうな廃屋へ。
 抜けそうな床をそっと踏み、端にある木製の扉をゆっくりと開ける。「ここ」クリスに向けて真っ暗な中を指さしてみせたが、それじゃわからないか、と思い先に行くことにした。まずは狼を落として、と。
 ギシ、ギシ、と不安な音を立てる梯子をゆっくりと下りて、これもまた真っ暗な、おまけにカビ臭い地下室につま先をつけ、梯子から手を離す。

「クリス、飛んでこい」

 ほら、と両腕を広げる。クリスぐらいなら抱えられるつもりで。
 冷静に考えると、クリスの爪でも食い込もうものならかなりの大怪我になったわけだが……クリスは上からバカみたいに落ちてきた。着地を考えず、俺に全部を預けるように、背中から落ちてきた。
 暗闇の中目を凝らしてなんとか受け止めたものの。その全幅の信頼が、クリスが子供で、俺を頼っているのだ、という現実が、少しだけ重たく感じた。
 火を起こし、バカみたいに火から距離を取って驚いているクリスに、皮を剥いで必要最低限の処理をした狼をやった。そう、食事だ。
 昼間はハーピーくらいしか獲ってやれなかったけど、これなら少しは腹が膨れるだろう。
 クリスは、やっぱり腹が減ってたんだろう、すぐに狼の肉をつつき始めた。
 俺は叩き落とした狼の四肢の、少しばかりついた肉に火を通し、ないよりマシだ、という気持ちでゴムみたいな食感の肉を腹に入れる。
 川で汲んでおいた水を革袋から飲み、少し考えて、そのへんにあった欠けた陶器に残りの水を入れた。

「ほら、水も飲めよ」

 川を通りかかったときに喉を鳴らして飲んではいたけど、クリスは子供だ。代謝とかすごそうだし、水分は生き物の基本。飲むに越したことはない。
 水の器をクリスの近くに置き、何か使えるものはないかと地下室を物色した。カビの生えた肉。パリパリに乾いた何か。空の樽。割れた壺。使えないものばかりが転がっている地下室で、ようやく雑巾みたいな布を見つけた。古くて廃棄された毛布だったモノ、あたりかなこれは。
 ないよりはマシだろうと、雑巾みたいな布を抱えて、寝床になりそうな場所を探すが、当然、そんな場所はない。土よりも硬いだろう石の床ばっかりだ。
 諦めて火のところに戻った。そのへんに雑巾みたいな布を放る。カビ臭いし、埃臭い。
 夜の中でも見えるだろうグリフィンの目なら、火はなくてもいいだろう。ここは地下室、おまけに密室だ。酸素を消費する火は消そう。
 火を踏み消し、再び真っ暗になったカビ臭い空間で、カビと埃臭い布の上に腰を下ろす。

(……さすがに、疲れたな。いろいろと)

 俺が先にカビと埃臭い布の上に転がってまどろんでいると、狼を食い終わったらしいクリスが爪を鳴らしながら寄ってきた。真っ黒な中にぽつんと二つの赤い目をして「グェ」と鳴く、その口は血なまぐさい。
 カビと埃臭い布を叩く。ここに来い、と。
 クリスはとくに疑うことなく俺のそばにきたようだ。暗くて見えないが、すぐそばに自分以外の温もりを感じる。
 暗闇の中、手を伸ばして、クリスの背中だろう部分を撫でた。「ごめんな。もっと、かっこよく、助けられたらよかったのになぁ」一人ぼやいて目を閉じる。
 今日は、とにかく疲れたから。明日から気持ちを切り替えて頑張ろう。

 


 

 

明るめって言っておきながら以下略!\( ゚д゚ )/
今回はグリフィンの名前がクリスで少年の名前がリノということが出せてよかったですε-(´∀`)
この2話がプロローグって感じなんですが、思ったより長めのお話に…なるかもしれません( ˘ω˘ )

小ネタ

・テルの黒ブドウ亭に入って左手にある、カウンターに近い部屋がリノが二年寝起きしていた部屋設定です
ゲームでは壺やらが散乱してる倉庫みたいな部屋ですね。ここの荷物を端に寄せて、ベッドを入れた、そんなイメージです
・リノとクリスが最後に泊まったのはテル近くの廃屋です

誰かにとって参考になるかもしれない小ネタでした( ˘ω˘ )

 

 

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