ブラックグリフィンの郵便屋さん③
このお話は、DDONに出てくる敵『ブラックグリフィン』と少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です↓
これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ
何話か続けていく予定です! アニリンシリーズより長めになってしまう…かも!
巨木の城
テルの村から逃げ、近くの廃屋で一夜を明かしたあとは、朝早くにクリスと移動を開始した。
人が出歩き始める前に、なるべく見つからないように、新しい住処を探す必要がある。
地図を睨んで、一番可能性があるなと思ったのはリンウッドの森だ。広いし、緑が人の目を誤魔化してくれるし、川があるから飲水の心配もしなくていい。動物も平野より多く生息しているから、これから食べ盛りになるだろうクリスを育てるにはもってこいの場所。
人が起き出す時間帯になる前に南ハイデル大橋を渡り、森に入る。「クリス」眠いのか、昨日はあんなに元気に森を行ったクリスの足取りはヨタヨタと頼りない。何度も呼ばないと俺の後ろばかり歩いてる。
「今日中に寝床を確保しないと。ほら、頑張れ」
「ぐぅ…」
ようやく追いついたクリスの背中を撫でたり叩いたりして寝そうなのを起こしながら、道が左右にわかれる場所に出た。右手が橋、左手が山道。
確か右の橋を渡った向こうは、覚者しか用のない、俺みたいな一般人は行ってもしょうがない場所だったはず。
なら左だな、と道を曲がって、周囲を注意深く観察しながらとにかく歩いた。
まだ子供で自己防衛意識の低いグリフィンと、人間である俺が、なるべく安全に暮らせる場所がいる。
そうなると、安全なのは洞窟だが、そういった場所にはたいてい先客がいるものだ。しかもだいたい面倒くさい大きめの魔物が。
たとえば、クリスが大きくなって、俺と一緒に戦ってくれる…となれば、そういった魔物にも挑戦していけるかもしれないけど。今はまだ無理だ。クリスに怪我をさせるわけにはいかない。
(ミスリウ鍾乳洞が目と鼻の先か…)
一応、目星の一つとして、鍾乳洞の近くにある廃屋をチェックした。
暖炉の部分と煙突辺りは無事だが、壁も屋根もほぼ役に立たない状態。テル近くの廃屋よりもずっと壊れている状態、かぁ。
道沿いだし、何が住んでいるかわからない洞窟も近い。ここに住むのは避けた方が無難か。
道なりにさらに進んでみると、まだ原型を保っている廃屋があったが、いかにも何かの住処になっていそうな感じで肉や骨が散乱していたので足早に通り抜けた。
この辺りはダメみたいだ。もっと森の奥じゃないとダメか。
道をまっすぐ行ったところにある川にかかる橋を渡り、リンウッドの村から距離を取るように離れて、さらに森の奥へ。
そびえ立つような巨木を調べながら、ちょうどいい蔦を使って木登りし、枝の上に出る。太い枝の一本一本を踏んで足場を確かめ、顎に手を添えて考えた。
(これだけ立派な木なら使えるな。俺とクリスぐらいは支えられそうな太い枝だし)
木の上なら、地上の魔物はあまり気にしなくていいだろう。ゴブリンとか、リザードマンとか。
魔法を使ってくるスケルトンはやっぱり油断できないが、基本的に上は気にしないはずだ。寝起きするためだけの場所なら、そう見つからないハズ。
(うん。とりあえず、木の上に住むか。丈夫なロープと、木を切り出して床板の代わりにして…あまり大きいと固定とバランスが難しいから、俺とクリスが入る分だけの……)
考えながらメジャーを取り出して木の枝のサイズを測り、必要なものをメモしていると、「グワァ」と声。
視線を落とせば、地上からクリスがこっちを見上げて翼をバサバサしている。ぴょんぴょんと跳ねて、こっちに来たそうにしてる。
「もうちょっとだから、待ってろって」
言ったところでクリスにはわからない。
そういえばクリスが自力で飛ぶところをまだ見ていないな、と思う。…翼の怪我は大したことなかったから、飛ぶ機会がなくて飛んでないだけかもしれないが。
俺は蔦とロープでどうにかなるとして、クリスにはここまで飛んでもらわないと困る。
「クリス」
「グワァ」
「おいで」
ここだ、と木の枝を叩く。ここまで飛んでこい。頑張れ。それまで俺はここで待ってるよ。
俺が動かないでいると、クリスはまず、俺の真似をしようと木の幹に垂れ下がっている蔦を引っかいた。当然、グリフィンの爪じゃ蔦を掴むことはできず、俺と同じように登ることはできない。
何度も挑戦して失敗して、クリスは若干しょんぼりした顔でこっちを見上げた。耳が垂れ下がってる。
「頑張れ。お前は飛べるんだぞ」
「グェ…」
「飛ぶんだクリス」
そんなやり取りを、三回はしただろうか。
こればかりは、俺が手本となることはできない。人は空を飛べない。
しょうがない、一度諦めて…と再び下を覗き込んだとき、川から上ってきたリザードマンが見えた。向こうはすっかりしょげて座り込んでいるクリスに気付いていて、手にしている槍でクリスを狙っている最中だった。
腰のダガーを抜く。
相手は一匹。
迷いはなかった。
俺は、跳んだ。太い木の枝を駆けて空へと飛び出した。
…一瞬だけ、自分も空を飛べたような、そんな錯覚。
すぐに浮遊感は地面に引っ張られる落下に変わる。
こちらに気付いていないリザードマンの、脳天に、構えたダガーを突き立てる。全体重がかかった衝撃をうまく逃しながら地面を転がったがそれでもやっぱけっこー痛い。
口に入った土をぺっと吐き出しながら起き上がると、クリスがドタドタ駆けてくるところだった。「グワ!」「はい、はい」ぐりぐり頭を押し付けてくるので押し返す。…こいつ、今ちょっと危なかったってことわかってないな。
痺れる腕をプラプラさせながら、倒れて動かないリザードマンからダガーを引っこ抜くのに苦労した。
とはいえ、今日の飯はコイツだな。昨日の狼よりはマシな肉にありつけそうだ。リザードマンの尻尾ってけっこーおいしいんだよ。
俺が枝から大ジャンプをしたのがよほど気に入ったのか、クリスは俺の真似をして段差から飛び降りて遊ぶようになった。
斧とノコギリ片手に木材と格闘している俺を見ているのに飽きたのか、今も遊んでいる最中だ。
「遠くへ行くなよー」
時折声をかけつつ、俺とクリスを支えられるだけの床を作っていく。
すっかり手が痛いが、そうも言っていられない。今日中になんとかしないと。
そうやって何時間も格闘し、腕も手も使い物にならなくなったので、いったん休憩してリザードマンの尻尾をかじった。淡白すぎず、かといって魚とも違うこの肉感、嫌いじゃない。
休憩していると、クリスがドタバタと駆け寄ってきた。「グワァ」「ん? ああ」リザードマンをほぼ一匹平らげたというのに、クリスは小腹が空いてるらしい。俺がかじっている焼いた尻尾を物欲しそうに見ている。
仕方ないので、残りはクリスにやった。
腕をプラプラさせつつ、切り出した木材を引きずって移動させ、さらにこれを担いで上に登り、そこからさらに、頑張ってロープを駆使して木材を木の枝と幹で固定させる。
これを夕方までになんとか終わらせた自分をものすごく褒めてやりたい。
力尽きて作った床板の上でぐったりしていると、バサ、と羽音がした。俺の大ジャンプを見て飛ぶ真似を始めたクリスは、なんとか自力でここまで飛べるようになったのだ。自分には翼がある、ってことを思い出したのかもしれない。
木の上にやってきたクリスは床に着地すると、フンフン、とにおいを嗅いだ。それで何がわかるのか知らないが、一通り鼻を鳴らしたあと、安全だと認めたのか、ちょこんと座る。
木の葉の向こうの橙の空の端が夜の色になってきた。そろそろスケルトンが出てくる頃合いだ。
「…夕飯か……ちょっと、疲れたなぁ」
クリスとしては、そろそろまた飯を食いたいのかもしれない。俺としてもそろそろ腹に何か入れたい。が。狩りをする元気はもうないしなぁ。スケルトンと遭遇してこの場所を知られたくもないし……。
仕方がないので、布袋から秘蔵の干し肉を取り出した。途端にキラキラするクリスの目よ。
「いいか? これは貴重なんだぞ。牛の干し肉…買うのだって高かったんだ」
「グワ」
「非常食として持ち歩いてるんだ。本来なら食べないで大事に持っとくんだけど…今日は特別な」
クリスの嘴にちぎった干し肉を持っていくと、さっそく食いついた。が、干し肉は当然硬い。クリスは何度も嘴をモゴモゴさせながら干し肉を食べようと格闘している。
そうそう、そうやって、ちょっとでも時間をかけて食べてくれ。高かったんだから。
自分の口にも干し肉を放り込む。…うん、この歯ごたえ。にじみ出てくる牛のうまさ。リザードマンの淡白な尻尾も悪くないけど、やっぱ牛はうまいなぁ。
干し肉を口の中で転がしながら、暗くなっていく空を眺め、木の幹に背中を預ける。
(当面はここで寝起きするとして…必要なのは、毛布と、水を入れるための壺なり食器。この場所をもっとうまく隠すために、木の葉を使ってカモフラージュも必要だろうな。雨除けに天井もいる……)
ああ、やることはまだまだたくさんありそうだな。しばらくは忙しいぞ。
新しい住処の獲得に四苦八苦するリノの回\( ゚д゚ )/
小ネタ
・今回はハイデルから徒歩でリンウッドまで行く感じで書いたので、その場所から歩くと、クリスとリノの道のりがよくわかります
・隠れ家の場所はこの辺りにある巨木です。ゲームでも登れます(∩´∀`)∩
誰かにとって参考になるかもしれない小ネタでした( ˘ω˘ )
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