ブラックグリフィンの郵便屋さん①

2019年4月15日

 

前回好評のうちに終幕したアニリンシリーズは、グリーンガーディアンと少女が中心のフィンダム大陸でのお話でした

 

↑ まだの方はこちらからどうぞ!

明るい話にはならなかったのですが、それでもたくさんの感想をもらえまして、嬉しかったです(∩´∀`)∩
なので! 今度はちゃんと明るいほんわか話が書きたい! と思いまして……思いついたのは、

・ブラックグリフィンが郵便屋さんをする話

ハイ! ブラックグリフィンが郵便屋さんをします!\( ゚д゚ )/
ブラックグリフィンはレスタニアにいる魔物グリフィンの黒いバージョンです↓

黒いと大きなカラスのようにも見えますね…!

このお話も何話か続けていく予定です! 需要は…きっとある……!

 


少年グリフィンを拾う

 

 寂れた山の風景を眺めつつ、パンとチーズを交互にかじる。
 今日はラッキーだ。パンにチーズ、キノザ名物の果物と牛乳のミックスジュースも買えた。久しぶりに腹いっぱいの昼飯だ。
 キノザの温泉に行きたいんだというじーちゃんばーちゃんをジンゲンから護衛すればいい簡単な仕事内容で、ゴブリン程度の魔物を蹴散らすだけで問題なくキノザに到着したし、『儂らが風呂に入ってる間、食べておいで』と小遣いまでもらった。おかげで腹は膨れたし、気分も良い。
 最後のパンひとかけらを口に入れてジュースで流し込む。ああ、うまかった。
 空になった器を眺めていると、暇そうに品物の整理をしていた恰幅のいいおばさんが呆れたような感心したような顔でこっちを振り返った。「あんた、もう食べたのかい。よく噛まないと健康に悪いよ」「健康にいいとか、悪いとか、気にするような生き方してると思う?」皮肉って返して席を立つ。お代は先に払ってあるんだ、世間話に付き合うような義理もないし、人のいないところに移動しよう。
 ボルド鉱山は『キノザ鉱泉』のおかげで今もなんとか機能している、白竜のいる神殿からは遠く離れた山岳地帯だ。
 白竜が地に堕ちる前…。魔物の姿が今よりずっと少なかった頃は、鉱山業で栄えていたらしいけど。今ではその活気は消え失せ、坑道にいるのは作業員ではなく魔物で、山道にもハーピーやゴブリンがいる。
 それでもこのキノザが廃墟にならなかったのは、レスタニアで唯一と言っていい天然の鉱泉があるから。
 俺にはわからないけど、歳を取ると温泉っていうのはイイモノになるらしい。
 風呂なんて、汚れたら入ればいいし。わざわざ金を出して、ちょっとした危険も承知で、それでも入りに行く価値なんてあるんだろうか。

 

 温泉のある建物の前でちょっと待ってみたが、じーちゃんばーちゃんはまだ出てこない。長湯だなぁ。
 仕方ないから武器の手入れでもしようか、と思ったけど、温泉前は人の出入りがあって集中できそうになかった。「ママー温泉! 温泉~!」「温泉は逃げないわよ」身なりのいい子供と母親が連れ立ってキノザ鉱泉に入っていく。若干めんどくさそうにしている父親があとに続く。
 町の外れの外壁まで行き、壁に登って見晴らしのいい場所に腰を落ち着けた。…ここならまだ静かだ。よし、ダガーの手入れをしよう。

(…ちょっと刃が欠けたな。そろそろ寿命か)

 光にかざせば鈍く輝く刃のあちらこちらに小さな欠けがある。いくら手入れを心がけても、名刀でもなんでもないただのダガーは刃こぼれする。
 このままじゃ交戦中にダガーが折れる、なんてことにもなりかねない。予備はあるけど……また何か調達しないといけない、か。
 はぁ、とため息が漏れた。
 そう。結局、こうやって稼いでも、日々生きていくために必要な食い物とか、消耗品の武器とかを買い替えたら、稼いだ分なんてすぐ消える。
 悲しいかな、孤児である自分には、温泉に連れて行ってくれるような親はいないし、小遣いをくれるような誰かもいない。…まるでその日暮らしの獣だ。
 ようやく出てきたじーちゃんばーちゃんは温泉に大変満足したらしく、ジンゲンまで傷一つなく送り届けたら、報酬を上乗せしてくれた。
 ラッキーだ。長い時間待ちぼうけしたかいがあった。

「しかし、神殿から遠いのに、爺婆の護衛になんぞよぅ来てくれたなぁ」

 じーちゃんがしみじみそう言った。ばーちゃんも隣でうんうんと頷いている。「あー…」これは別に、感謝されるようなことじゃない。神殿に張り出されてる仕事で、ジンゲンまで行かなきゃいけないってことで疎遠されてたこのヤマくらいしか、俺がありつけなかったってだけの話だし。
 適当に笑ってごまかすと、ばーちゃんが手もみしながら「どうかね、も一個、仕事、頼まれないかね?」と言ってきた。「なんですか? あんまり難しいのとレベル高いのは、覚者の人じゃないとムリですよ」一応予防線を張る。前、この手で痛い目を見たことがあるから、一応。そういうじーちゃんばーちゃんには見えなかったけど。

「ほら、ボルドのお山の一番上に、小堂があるだろう?」
「あるんですか?」
「あるんだよ。今じゃ、もう誰もお参りしないけどね」
「はぁ。それがなんです?」
「そこはなぁ、儂らの一人娘が身投げした場所なんじゃ」

 身投げ。
 山の高い場所から、遥か下方の大地を見ながら空を飛ぶ。人に翼はないから、数瞬飛んだように錯覚できるだけで、あとは落下して、地面にぶつかる。…どうやらこの老夫婦の娘とやらは親不孝な逝き方をしたらしい。
 そのことに深くは触れず、「それで…俺はそこで何をすればいいですか」と尋ねると、「ちょっと、お待ちね」と言ってばーちゃんはそそくさと家の方に戻っていく。
 じーちゃんは、今じゃ高級物の葉巻を取り出した。「一服いいかね」「どうぞ」三歩くらい離れる。煙は鼻が鈍るから苦手だ。
 しかし、ラッキー続きだな。俺にできるレベルの仕事を続けてくれるなんて。武器を買い換えないとならないって憂鬱だったけど、この仕事を受ければ資金面もなんとかなりそうだ。
 戻ってきたばーちゃんの手には、手編みのセーターのようなものがある。「これをね、小堂に置いてきてほしいんだ」「はぁ…」まぁ、じーちゃんばーちゃんの歳で山登りが厳しいっていうのはわかる。若いのに任せた方が確実だろうってのも。
 ばーちゃんの手からセーターを受け取る。「これを置いてきて…仕事の証明に何を持ち帰ればいいですか?」ばーちゃんはシワの多い顔にさらにシワを寄せる。「そうねぇ。小堂にある何か、でいいわ。教典とか、あったらちょうどいいわねぇ」「わかりました」廃墟から頂戴する分にはバチも当たらないだろう。
 報酬は申し分ない額を前払いで受け取った。
 今後このじーちゃんばーちゃんから仕事をもらえるきっかけにもなるかもしれない。なるべく迅速に仕事を終わらせてしまおう。

 

 


 

 

 ジンゲンの宿で朝まで休んでから、張り切ってキノザ目指して出発し、キノザで飯と装備を整えてからボルド鉱山を登った。
 狼やハーピー、ゴブリン系の魔物を蹴散らしつつ、擦り傷には薬草を塗りつけて処置し、頂上を目指す。
 もう少しで頂上だ、というときに、頭上の岩場から何かが転がり落ちてきた。落石か、と思ってとっさに避けると、ドサ、と重い音。硬い音じゃない。
 振り返ると、黒い物体が落ちていた。…動いてる。生き物?
 反射的に距離を取って腰のダガーを抜いた。人じゃないなら魔物だ。こんな山頂、山登りの物好きくらいしか来ない。
 油断なく構えていると、黒い物体がもぞもぞと動いた。ぴょこ、と小さな黒い頭が覗く。鋭い嘴もある。ハーピーじゃない。

「グワァ」

 ……ハーピーは歌声で惑わせてくるしな。うん。この声は絶対ハーピーじゃない。
 潰れたカエルの声、とは言わないが、なかなか酷い鳴き声をしているその黒いのに、これも頭上の岩場から飛び出してきた白いのが体当たりする。「グエッ」と押し潰される黒いの。
 白い方を見て、俺は黒いのがグリフィンだということにようやく気がついた。
 そう、グリフィンが、黒いのだ。
 岩場の上から別の白いグリフィンの子供が現れて、黒いグリフィンをつつき始めた。執拗なまでにつついている。もう一匹は上から押さえつけるようにのしかかったままだ。

(おい。ニ対一は卑怯だろう)

 さらに現れたグリフィンの子供が黒いのの頭を踏み潰したあたりで、我慢ができなくなった。「おい」子供のグリフィンは俺がいることに気付いてなかったらしく、人間の姿があることに気付くと驚いて空に舞い上がっていった。
 つつかれ、踏み潰され、すっかりボロ雑巾みたいになった黒いグリフィンに、迷ったあとに手を伸ばした。

「おい。大丈夫か」

 三対一で、おそらくいじめられてたんだろうグリフィンの怪我は、まぁ大したことはないみたいだ。けど、子供のコイツにとっては体の傷よりも『仲間にいじめられた』ことが問題なんだろう。赤い小さな目は泣いているみたいだった。
 どうしたものか、と困惑していると、ふっと影ができた。空に雲がかかったのかと見上げれば、親のグリフィンだろう、立派な成体のヤツが子供三匹を連れて飛んでいた。どこか冷ややかな目でこっちを見下ろしている。
 あれが親なら、子供に触れてる人間の俺に激怒するかと思ったが……親グリフィンはそのまま、子供三匹だけを連れて旋回、キノザから離れるように飛んでいく。
 遠ざかっていく親と子供三匹を見て、黒いグリフィンはなんとか立ち上がった。「ぐ、グェ…グエェッ」一匹に背中から踏みつけられて痛めたらしい片翼を開ききることができず、黒グリフィンは飛び立つのに失敗してみっともなく岩から転げ落ちた。それでも必死に、親に追いつこうと立ち上がろうとしている。

「…捨てるのかよ……」

 ちょっと、鳴き声がブサイクなだけで。体毛の色が違うだけで。自分の子供を捨てるのか。コイツはこんなに一生懸命じゃないか。
 現実は無慈悲で、黒グリフィンは飛び立てないまま、親グリフィンはコイツを捨てて、キノザを離れていった。
 親に捨てられたとわかって、人間の俺から逃げ出すことも忘れてうずくまっている黒い塊に手を伸ばす。
 腹の下に腕を入れて抱き上げてみると、わりと重い。うさぎが何匹分だろう。

「まぁ、泣くのはわかる。悲しいのもわかるよ。俺も捨てられたクチだし」

 小さな頭をぽん、ぽんと叩く。言葉は通じてないだろうが、音、には聞こえてるだろう。

「そんな俺が頑張ってる理由があるんだけどさ。見返してやりたいんだよね。世界のことも、人のことも。ざまぁみろって笑ってやりたいんだよ。でもそのために、悪いことはしたくない。できるだけ。そんなしんどい生き方を、でも、してるわけ」
「……ぐぅ…」
「大人になってさ、見返してやろうぜ。よくも捨てたなって。おかげで強く立派に育った、って言って笑ってやろうぜ。俺も手伝ってやるから」

 グリフィンの子供を抱えて岩から岩へ飛び移り、本来の目的地である山頂の小堂がようやく見えてくる。
 小堂に続くちょっとした広場には、グリフィンが巣にしていたんだろう、どこからか持ってきた大きな鐘があった。その下がちょっとしたスペースになっていて、バラけた鹿の残骸が転がっている。ここで子供を育てていたんだろう。
 とりあえず、小堂で仕事をすませてくるまで、と子供を巣だったろう場所に下ろす。「ちょっと待ってろよ。すぐ戻る」もう骨ばかりの鹿の脚が転がっていたので近くに置いてやると、腹が減っていたのか、黒グリフィンはツンツンと骨ばかりの脚をつつき始めた。
 目的のブツ…小堂の一番奥にセーターを置いて、転がっていた土埃まみれの教典一冊をちょうだいして戻ってくると、「グワァ、グワー」とあの鳴き声が聞こえた。黒い物体が誰かを探し回るようにウロウロしている。
 小堂から出てきた俺に気付くと「グワァ、グワァ」とやかましい声を上げながらよたよた駆け寄ってきた。
 翼の調子はイマイチみたいだけど、もう元気だなぁ。子供は風の子、元気な子、と。その調子。

 こうして、しがないその日暮らしの獣は、もう一匹の獣を仲間に加えたのであった。

 

 


 

 

明るめって言っておきながら出だしが微妙な空気になってしまいましたΣ(´∀`;)
今回は主人公の少年とグリフィンの出会いのお話です! 出会っただけで名前出てないや!(

黒グリフィンはふつーのグリフィンのお母さんから生まれたのですが、『声が変』『色も変』と兄弟にいじめられ、親にも捨てられてしまいました(´・ω・`)
しかし、少年に拾われて、元気いっぱい、生きてきますよ! という姿は次のお話から書きます! たぶん!

 

 

↑ 続きはこちら

 

アリスの小説応援! にポチッとしてもらえると励みになります❤(ӦvӦ。)

 

 にほんブログ村 ゲームブログへ