ブラックグリフィンの郵便屋さん⑧

2019年11月28日

 

このお話はDDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓

これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ

 

次くらいに、郵便屋さん要素が、出せれば……。。

 


世界

 

 ママが、倒れてしまった。
 ママと似たヒトの顔立ちの、体は僕にそっくりな、敵、をがんばってがんばって倒したけど、ママが、倒れてしまった。
 ママは、背中から血が出ていた。赤い色が流れていた。爪が食い込んでできた跡。さっきの怖いのにやられてしまったんだ。
 ママは、怪我をしている。
 でも、僕は治せない。僕の怪我はママが治してくれるけど、ママの怪我は、僕は治せない。

(どうしよう。どうしよう?)

 オロオロするだけの僕と違って、ママの、ともだち? は、冷静だ。「爪に後ろからヤられたか…結構深いな」そうこぼして、思案げに、ジンゲンの人里の方に顔を向ける。その顔は険しい。「ジンゲンに医者はいない。月に一度定期的によそから来るだけ…こりゃマズいぞ……」イシャ。イシャ、ってなんだろう。
 何もしていないのも不安で、でもできることもなくて、ただ足踏みしてオロオロしている僕に、ママのともだちが鋭い目を向けてくる。

「お前、飛べるな? なんだっけ、クリス、だっけ」
「ぐぇ」

 そう、僕の名前はクリスだよ。憶えてるんだね、ママのともだちさん。
 ママのともだちは、ママの腕を肩に回して立ち上がると、ぐったりしているママを僕の背中に乗せた。それで、自分も跨って乗っかった。二人の体重が重たくてちょっとよろけそうになるけど、ママを落としたらいけない、と頑張って踏ん張る。
 背中から、ママのともだちの手が伸びてある方向を指す。

「あっちの方角に飛ぶんだ」
「ぐえ…」
「落ちないようリノはオレが支えとく。いいか? なるべく急いで、『神殿』までいけ。立派な人の街を目指すんだ。でないと間に合わないぞ」
「グゥ?」

 人の街を目指して、飛ぶのはいいけど。間に合わないって、何が? どういうこと?
 首を捻って背中を振り返った僕に、眉根を寄せた難しい顔でママの背中に布を押し当てている人は言う。「このままだとリノは死ぬ」と。
 シぬ。
 ママが。シぬ。
 シぬ、って、言葉の意味は、よくわからないけど。シ、という音が連れてくる気配は、黒く淀んだ泥のようで、夜に見る森のように不吉で、不気味だ。
 二人の人を乗せて飛べるかどうか、なんて迷っている暇はなくなった。
 足元から這い寄ってくる黒く淀んだ気配を振り切りたくて、僕は翼を広げた。
 まだちょっと体が痛いし、足が痛いけど、ママの怪我に比べれば大したことない。僕は全然大丈夫。二人の人を乗せても飛べるよ。
 ママを、シから、救わないと。僕が。
 前足でぬかるんだ地面を引っかき、崖からなるべく遠ざかってから、痛む後ろ足を蹴り出す。

 崖から落ちた、ママを傷つけた、怖い敵。
 大きな翼を持った相手は、自然と、僕の母親を思い起こさせる。
 僕を置いていった母。色が変だから、声が変だから、と普通の子供たちだけを連れて僕を捨てていった母。
 母の顔が、ママを傷つけた瑠璃の羽根の持ち主に重なって見える。
 母はいなくなった。怖い相手もいなくなった。
 このままではママもいなくなってしまう。
 それは、絶対に、いやだ。

 僕は落ちずに、黒い翼を広げ、ママのため、僕のため、青い色の中に飛び出した。

 

 


 

 

 ………気がつくと、目の前には白い竜がいて、年老いて老成した瞳でじっとこっちを見下ろしていた。
 その場所は、辺り一面が白い、川面だけが水色をした場所だった。
 俺は小舟に横たえられて、小さな川をたゆたうようにしてゆっくりゆっくりとどこかへ流されている。
 そんな小舟を見ている竜は、このレスタニアを治めていると言われる、白い竜にそっくりな姿をしていた。

『リノ』

 竜は、白かったが、その体のかなりの部分が石化していた。弱っている、のだと思う。
 年老いた声で、竜はとても億劫そうに、鋭い爪のついた前脚を動かした。その黒い爪の先が俺の左胸、心臓辺りをさす。

『生か、死か。選べ』
「……、」

 唐突すぎる、極端すぎる選択肢に、思考が追いつかない。
 俺はさっきまで何をしていたのか。どうして今ここにいるのか。
 白い竜がいる、白い空間で、小舟の上で、束の間考えた。…何も浮かばない。ただ、ぼんやりと、頭の中に黒い毛色のグリフィンがいるだけだ。
 そのグリフィンは子供で、不安そうな面持ちでキョロキョロと辺りを見回している。
 ……あの子供を一人にしてはいけない、と思う。

『ならば、その心臓を捧げよ』

 竜の爪が、胸に食い込む。
 今まで経験してきた中で一番と言っていい痛みが左胸を貫き、呼吸も思考もすべてが一斉停止した。
 ただ、真っ白になった世界の中で、黒い色のグリフィンがオロオロと歩き回っている。

 

 …死ねない。
 死んでは、ダメだ。
 リノ。お前は死ねない。
 なぜなら、お前は、俺は…もう、独りきりではないのだから。

 

「っ、」

 ヒュッ、と音を鳴らして喉に空気が通った。咳き込みながら手探りの視界で左胸を押さえる。傷は、ない。

「リノ!」

 この、声には。憶えがある。まだぼんやりとした視界では顔まで見えないけど、知ってる声だ。「ちぇすたー?」そう、確か、そういう名前だ。ジンゲンで、世話になったはず。
 チェスターに支えられる形で体を起こされ、何度も何度も瞬きを繰り返す。
 そこは知らない場所だった。清潔なベッドに、石畳の床。きちんとした家具。まずジンゲンじゃない。
 まだどこか霞む目をこすり、停止している思考で、少しずつ、考えることを始めていく。
 俺は、チェスターと、ジンゲンのスフィンクスを退治したんだ。そう、そうだった。それでスフィンクスに背中をやられて…意識が落ちて……。
 背中に手を這わせてみる。…傷がない。そういえば、痛みもない。左胸がズキズキするだけで、背中はちっとも痛くない。
 一体どういうことなのか、とチェスターを見やる。俺の腕やら足やらを持ち上げたりして状態をチェックしていたチェスターは、最後にバンと背中を叩いてきた。痛い。

「いやー、危なかったんだぜ。ジンゲンには常駐の医者いなくてな。クリスにお前を神殿まで運ばせたんだよ」
「…、クリス。クリスは?」

 思考から抜け落ちていた、黒いグリフィンのことを思い出した。
 クリス。俺がそう名付けた。親に捨てられたあいつを俺が拾って育てた。
 そうだ、クリス。どうして一瞬でもあいつのことを忘れていたのか。
 詰め寄る俺に「まぁ落ち着け、ちゃんといる。神殿の外にいる」と言うチェスターに、ベッドを跳び下りる。勢い余って壁にぶつかったが、それでも走る。裸足だけど関係ない。舗装された神殿の石畳の地面は裸足でも痛くない。
 海方面以外では一つしかない街への出入り口の階段を駆け下りる。
 見張りの兵士がギョッと驚いた顔をしている横を走り抜け、外に飛び出すと、黒い毛並みで翼を持った生き物が何かを追いかけていた。
 弾む息を整えながら歩いていくと…クリスが、ゴブリンを追い立てていた。食事のためというより、神殿から遠ざけるように、翼をばたつかせながら「グワー!」と大きな声を上げてゴブリンを追い回している。

「クリス」

 大きめの声で呼ぶと、ゴブリンを追いかけていたクリスがピタリと動きを止めて首だけでこっちを振り返った。それから、気のせいじゃなく、瞳をキラキラさせてドタドタとこっちに駆け寄ってくる。

「グエ! ぐ! ググ~!」

 ドタドタ駆け寄ってきたかと思うと、ずざざと地面をスライディングしながら俺に頭を差し出してきた。今はもう抱えないとならなくなった大きな頭を抱いて撫で回す。

(そうだ。死の淵から戻ってきたのは、お前がいたから)

 クリスの気がすむまで頭をぐりぐりと撫で回していると、背後から鎧の音が聞こえてきた。見張りに立っていた兵士だろうか。チェスターのことだから、クリスのことは、神殿の人に話を通してくれていると思ったんだけど。
 クリスを背後に庇うようにしながら振り返ると、騎士団の制服とは違う甲冑を着込んだ金髪の男が立っていた。…知らない男だ。

「お前がリノか?」
「…そうですけど」
「そうか。チェスターから話は聞いている。猛獣使いのリノ」

 どうやら、ここでもその肩書になったらしい。猛獣で表されてるのがクリスだってことを考えると複雑だ。「俺の名はレオだ」名乗った相手、レオに、はぁ、と曖昧に頷く。
 そうしてレオは、信じがたい言葉を真顔で口にした。

「お前を歓迎する。新人覚者よ」

 

 


 

 

スフィンクス戦で致命傷を負ってしまったリノは、クリスの背に乗せられて神殿住まいの医者のもとに連れていかれるも、すでに手遅れ状態でした
虫の息となったリノは死の淵に立たされ、そこで最後の問いかけをする白竜に応え、覚者へ…という流れ

ドラゴンズドグマの世界には詳しくないのですが、個人的には、白竜は死に瀕した者に順番に声をかけているんではないのかなぁと思っています
もちろん、五体満足なうちに自ら覚者となる者もいるんでしょうが、個人的には、そうやって平等に手を差し伸べていたらいいなぁという妄想です( ˘ω˘ )
DDONを始めるとき、プレイヤーはすでに覚者でしたが、一体どうして覚者になったのか?? っていうのは今でも地味に気になる部分だったりします

もう10月ですので、ちょっと更新ペースを早めないと完結までにドドンが終わってしまいそうですΣ(´∀`;)
またそのうち更新します…!

 

 

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