ブラックグリフィンの郵便屋さん⑪
このお話はDDONに出てくる敵『ブラックグリフィン』と少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓
これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ
『郵便屋さん』のコンセプトから始まったはずが、のんびり更新しすぎて郵便屋さんが出てくるまでが長くなり…
やっと出てきたと思ったらドドンが終了(´;ω;`)
小説を書くさいの資料がなくなってしまったので、だいぶうる憶え~になるかもしれませんが、クリスとリノの物語はまだ続きます…!
魔鳥獣を繰る者の話
ファビオと仕事を始めてからというもの、毎日は忙しいが、それは『充実している』といえる忙しさだった。
朝、鳥の声がし始めて、朝陽を浴びながらクリスの朝食がてらテル村付近までジョギングし、魔物がいたら追い払い(あるいは倒してクリスが食べる)、陽射しにあたたかさが宿る頃に神殿前の掘っ立て小屋に戻る。
するとたいていファビオがいて、今日神殿に届いた仕事の書簡を持って立っている。
「今日届いた依頼だ」
「…今日も結構あるなぁ」
「ムリなもんは他に譲ろう。ウチでなくてもできるってもんもあるしな。ま、できればウチがいい、ってご指名がこれだけあるわけだが」
掘っ立て小屋のガタつくテーブルで、ファビオが持ってきた仕事の内容を確認していく。「…あ」一つ、ジンゲンから書簡で届いていた仕事。その文字に見覚えがあるなと思ったら、いつかに仕事をくれた老夫婦だと思い当たった。
そういや、チェスターと一緒だったときも、結局あの人達には会わなかった。元気にしてるだろうか。
書簡の内容は、歳で山で暮らすのが辛いから神殿に引っ越したいというもので、俺に頼みたいと名指しされていた。
……荷物をクリスに任せたいっていうのはわかるんだけど、引っ越す場所まで俺に一任されている。自分達でここまでくるのが難しいとはいえ、なんだかな。
あの夫婦の護衛をしてキノザの温泉まで連れて行ったことは、そう昔のこととは思えないけど。あのときは二人とも元気そうだった。ジンゲンから早急に引っ越したい理由でもできたんだろうか?
「ん? ほー、引っ越しか」
俺の手から書簡を持ち上げたファビオがふんふんと頷く。「いい仕事じゃん。報酬も申し分ない」「…でも、俺、部屋の良し悪しはよくわからないんだけど」「そこは俺が見繕っとこう。じいさんばあさんだろ? なるべく段差の少なくてすむ、中心地に近い部屋を選んどくよ」ファビオはこういった面でも知識と顔が広いらしい。助かる。
今日の予定はこの引っ越しの仕事で終わってしまいそうだな、と思いながらチーズをはさんだパンをかじる。
ファビオは慣れた手つきでさっさと書類を仕分け、仕事の選定をすませた。
「うし。じゃ、今日はこの引っ越しの仕事を中心に動こう」
「わかった」
「作業面は任せるぜ。お前が戻ってくるまでには部屋を確保しとく」
気が向くことには全力なファビオは、口笛を吹きながら神殿へ戻っていった。これから老夫婦の部屋を確保しに行くのだろう。
ファビオの顔がきいて値引き価格だから、という理由で購入したファビオと色違いの仕事着に着替えて、クリスにくくりつける鞍を持って掘っ立て小屋を出る。
「クリス」
「グエ」
馬につける鞍を改造したものを持ち上げると、クリスは若干眉間辺りに皺を寄せた…ように思う。「仕事だよ」「ぐぇ…」心なしか声も弱い。
仕事上、『覚者リノはグリフィンを制御している』っていうのを一般の人もパッと見てわかるように、仕事のときはクリスに鞍と手綱の着用が義務付けられてしまったので、これはもう、仕方がない。あまりそういう言い方はしたくないけど…。
イヤそうに耳をしょげさせてはいるけど、本気で嫌がったりはしないクリスのもふもふした首を叩く。
「帰ってきたらうまいもの食べよう。な」
「ぐぅ…」
クリスは渋々という感じで立ち上がると、俺が取り付けた鞍を振り返り、つけていても問題なく飛行できるかどうか翼をバサバサさせて確かめ始めた。
クリスが納得するまでの間に、クリスの奥にしまい込んでいる金網の籠を掴んで引きずって外に出しておく。
この籠自体まぁまぁ重量があるけど、クリスが掴んでも壊れず、多少振り回されても大丈夫なモノといったら金網くらいだろう。
鞍を気にして背中をもそもそさせているクリスを見上げる。「行けそう?」「ぐぅ」不本意ながら、という顔で頷くクリス。
クリスの嘴の付け根辺りから、頭を覆う感じのちょっとカッコ悪い革製品の手綱をつけていく。
これも決まりだ。綱なんてなくてもクリスは俺の言うことをよく聞くけど。
ちょっとしたヘルメットみたいな、うん、カッコ悪い手綱をつけたクリスは、耳をピコピコさせた。鞍も嫌だろうけど、これも嫌そうだ。
笑わないようにコホンと咳払いして、お腹を地面につけて伏せたクリスの背中の鞍に跨って乗る。「行こうか」ぽんぽんと首を叩くとのっそり起き上がったクリスが前脚でガシャンと籠を掴んだ。
「せーの」
漆黒の翼が広がり、風を掴んで、クリスの黒い肢体が空へと舞い上がる。
ジンゲンに向かった俺とクリスを待っていたのはばーちゃんだった。
なんだろう。前に会ったときからそこまで期間はあいてないはずなのに、一回り、小さくなった気がする。
籠の隣でお座りしたクリスの首を叩いてそばを離れ、風避けのゴーグルを額まで上げる。「書簡を見てきました。神殿への引っ越し、で合ってますか?」ばーちゃんはこくこくと二度頷くと、「こっちだよ」と小さな背中を向けて先に歩き出す。
ついていくと、ジンゲンで一番小さな家に案内された。中はすでに荷物がまとめてある状態で……ただ、じーちゃんが暖炉の前のベッドで臥せっていた。
荷物の数と量を見て、仕事の癖でまずクリスで一往復すれば運べる量かな、と考えた。それから改めてベッドを見やる。…顔色、というか、受ける印象が、前見たときとはだいぶ違う気がする。
「おじーちゃん、どうしました?」
おばーちゃんは眉尻を下げた顔にきゅっと皺を作った。「酒を飲む人でねぇ。ついに、酒に呑まれちまったよ」「…じゃあ、神殿に引っ越すのは」おばーちゃんはこっくりと一つ頷いて、「お医者さんがね。ここにはいないからね」とポツリとこぼした。
(なるほど。そういう理由だったのか…)
おばーちゃんは暖炉の火にかけていたやかんを外すと、遠路はるばるありがとうね、と熱いお茶を淹れてくれた。
ありがたくお茶を飲みながら、考える。
荷物は一度で運べるだろう。問題は臥せっているおじーちゃん、おばーちゃんの移動方法だ。
この辺りにはまだハーピーが多い。獣もいる。それなりに危険だ。おじーちゃんおばーちゃんに牛車を手配して自分達で来い、とは言えない。
「このあとなんですけど、一度クリス…グリフィンに荷物を持って行かせます。そのあと、グリフィンに荷台を引かせて、おじーちゃんとおばーちゃんを神殿まで運ぼうと思うんですけど、どうでしょうか」
これが一番安全な手段だけど、グリフィンという生き物に慣れていない人からすれば青ざめそうな話だ。
おばーちゃんは不安そうに眉尻を下げた。「あの大きな子は、大丈夫なのかい? いきなり噛みついたりとか…」「しませんよ。そう教えてあります」なるべく穏やかに。自信を持って。これはファビオの受け売りだ。
不承不承という感じではあるが、おばーちゃんはクリスで荷台を引っぱっていくという方法で頷いてくれた。よし。
家の前に出て口笛を吹くと、籠を掴んだクリスが飛んできて、他に接触しないようにしながら上手に籠を下ろしてその隣に着地した。「いい子」クリスの口にりんごを放り込んで、鉄製の籠の中に荷物を運びこむ作業に移る。
荷物を漏れなく詰め込んだら、一度神殿前の掘っ立て小屋に戻り、待っていたファビオに鉄籠で運んだ荷物を任せ、ジンゲンに取って返す。
ジンゲンに戻ると、広場には荷台が出ていた。臥せっているおじーちゃんが乗せられて、おばーちゃんが横についていて…その横でこっちに手を振ってるのは、チェスターだ。ちょっと久しぶりかもしれない。
砂埃を巻き上げながら着地したクリスと俺に、チェスターは前と変わらない気軽さで「よぉ。ちょっと久しぶりじゃん」そう言ってニヤリと笑った。
ああ、確かにそのとおりだ。
ちょっと疲れたってふうに耳をしょげさせているクリスにりんごをやりながら「神殿じゃ、気付いたら帰ってたし」と返すと、「オレも忙しいのよ」肩を竦めたチェスターがおばーちゃん達を親指で示す。「任せたぜ」「うん」チェスターは前と変わらない気軽さで俺の肩を叩くと「じゃあなー。休暇が取れたら遊びに行くわ」と手を振って行ってしまった。
もう妖歌のローレライはいないとはいえ、それでジンゲンが平和になったわけじゃない。あくまで一つの脅威が去っただけだ。だからチェスターは、これからもここで暮らすんだろう。俺がいようといまいと変わらずに。
つかの間その背中を見送って、気持ちを切り替える。
クリスが背中の鞍と荷台をロープで固定する。急に外れたりしないよう、念入りにしっかりとチェック。問題なし、と。
いざってときはナイフで切断して、クリスを戦闘に出す。それでたいていのことはどうにかなるはずだ。獣やハーピーの梅雨払いは俺がする。
「では、行きますね。忘れ物ないですか?」
「大丈夫だよ」
クリスの首を叩く。「行こう」「グぇ」大人しく翼をたたんでいるクリスは、人間二人が乗ってそれなりに思い荷台をガラガラと引っぱって歩き出した。
意識のないおじーちゃんに変わってか、おばーちゃんはずっと、ジンゲンが見えなくなるまで、その小さな村をじっと見つめていた。
ドドンは終わってしまいましたが、キリがいいとは言えないので、クリスとリノの物語はまだもうちょっと続く予定です
ようやく物運びをするクリスとリノ
当初はここをコンセプトに書きたかったはずが、前置きがすごーく長い物語となってしまいました(´・ω・`) なぜだ…!
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