ブラックグリフィンの郵便屋さん⑦

2019年10月15日

 

このお話はDDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓

これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ

 

ものすごくお久しぶりです。お久しぶりです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

 

 


地に墜ちる

 

 これまでの雨が嘘のように青空が広がったその日、作戦は決行された。
 最後に装備の確認をしている俺に、同じく自分の装備を確認しながら、チェスターが状況確認のため、再度現状を口にする。

「いいか? まずは取り巻きであるハーピーの数を減らす。そのために白騎団には崖下で昨日から野営させてる。
 牛を捌いたり、見かけたハーピーは撃ち落としてもらって、奴らの関心を集めるだけ集めさせた。今はわざとスキを見せて、ハーピーの襲撃を誘ってるところだ。
 ハーピーも馬鹿じゃあないが、仲間をヤられて、目の前に牛の肉があるとなりゃ、そのうち食いつくだろう」

 腰のベルトに、革で保護した毒入りの瓶をしっかりとくくりつける。
 これは、戦いの直前に刃に塗る毒だ。
 相手は『妖歌のローレライ』と呼ばれるスフィンクス。毒を仕込めば肉はダメになるし、使えるものも使えなくなるけど、贅沢は言ってられない。討ち損じたら意味がない。確実に仕留めるため、刃には毒を込めるという意見はチェスターと一致してる。
 俺とクリスがスフィンクスの注意を引き、スキを見て、チェスターが毒を塗った刃でスフィンクスを刺す。
 傷自体で仕留められずとも、毒が時間をかけてスフィンクスを弱らせ、やがては倒れるだろう。人の顔をしてる生物だけど、人ほどの知恵はない。解毒はできないまま死に至るはずだ。

「うまいことハーピーを誘い出せたら、狼煙の合図がある。それが見えたらオレらの出番だ」

 自前のロープと鉤爪のぐあいを確かめながら、チェスターは崖下へと目を細くする。合図の狼煙は、まだ見えない。
 人にとっても牛肉は貴重だ。牛は育てるのに広めの土地が必要だし、草とはいえ餌もいる。狭い小屋ですぐに大きくなる鶏とはわけが違って、牛は育て上げるには時間もかかる。それをまるごと一匹使った。今回の作戦、失敗するわけにはいかない。
 落ち着かなさそうに辺りを見回していたクリスが、赤い目をギョッと大きく開いて「グワア」と鳴いた。それまで空を旋回していたハーピーが、降下を始めている。
 少しして青空に白い煙が昇った。合図だ。

「うし、行くか」

 いたって気取らず、いつもどおりの仕草で岩から腰を上げたチェスターに、硬く頷いて岩から背を離す。「クリス」じっとハーピーを見つめていたクリスが視線を引き剥がしながら俺についてくる。何も知らないで。どこへ行くのか、という顔で、落ち着かなそうに視線をキョロキョロさせながら、それでも俺にはついてくる。
 できれば、クリスが怪我をしませんように。代わりに俺が怪我をしますように。
 そんなことを願いながら、チェスターに続いて断崖の道を行く。

 

 そして、俺は、そこに立った。
 山の中腹辺りにあるチェスターの小屋よりもさらに高い崖の上に、石像の並ぶ奇妙な空間がある。
 人の手による石像は、かつては何かの祭事にでも利用されていたのか……。今では倒れ、欠け、人の寄り付かなくなったそこは、獣の骨や人の骨と思しきモノが散乱した、獣の巣になっていた。
 その獣はスフィンクス。
 妖歌のローレライと呼ばれ、かつてジンゲンに甚大な被害を出したとされている魔物。
 逃げも隠れもせずに立った俺に、骨をしゃぶって物足りなさそうにしていたスフィンクスの目がギョロリとこっちを見た。…ハーピーと同じ、人面の顔。
 人面、というだけで、なぜか背筋が寒くなる。相手は魔物なのに。
 もしその顔が対人間のためにそう進化したのだとしたら、よくできた話だ。
 ぷっと骨を吐き捨てて四肢で立ち上がったスフィンクスは、想定していたより大きく思えた。俺が普段接しているのがまだ子供なクリスのせいかもしれないけど。
 黙って腰のダガーを引き抜き、構える。
 スフィンクスのお供であるハーピーの数は三。さっそく笑いながら俺の周りを旋回し始めた。
 三匹。そのくらいならなんとかなりそうだ。

「別に、個人的な恨みはない。それでも死んでもらいたい」

 ズン、と重い一歩を踏み出すスフィンクスの人面顔がこっちを見下ろしている。四肢の爪はクリスのそれと同じくらい鋭い。一発でもまともに喰らったらアウトだ。
 深く息を吸って、吐き出す。
 今はまだ隠れているクリスのことを呼ぶのは、ピンチになってからだ。相手に身構えている余裕があるときに駒を揃えちゃいけない。

 思考を限定させろ。
 状況を切迫させろ。
 とにもかくにも、死物狂いで、やれ。

 いざというときのためのとっておきとして持ち歩いていた煙玉をポーンと放り、斬る。瞬間、火事で起こったような煙が辺りに充満する。
ここは風の流れが速い。相手には大きな翼もある。煙はすぐに晴れる。
 捨ててもいいという理由で集めてもらい、よく磨いた刃物をベストの内側から引き抜き、煙に戸惑っているハーピーめがけて投擲する。いち。に。さん。練習したかいあって、飛んだ的相手にもナイフを突き立てることができた。
 ギャア、と鳴いてハーピーが次々地面に激突する。
 トドメはさせなくていい。飛ぶ目がなくなるだけで。

(よし)

 スフィンクスが大きな翼で風を起こして煙を吹き飛ばし、手下であるハーピーが地に落ちているのを見ると人面顔の口を裂けたのかと思うくらいに開け、人の言葉のような、そうでないような、何かを喚いて絶叫した。
 前脚の爪で地面を引っかくような仕草に、とっさに真横に跳んだ。翼と四肢を使った突進をすんででかわし、まだぬかるんでいる地面を転がってすぐに手をついて跳ねるように身を起こす。一瞬でも気を抜く暇はない。
 さっきまで転がっていた場所を、スフィンクスの鋭い爪が抉った。「アあア゛ぁ!」声にすると、そんな感じの叫び声。まるで人間みたいな声を上げながらスフィンクスが前脚を振り上げてその爪で俺を引き裂こうとする。
 前脚を振り上げての爪での攻撃、そして突進。
 何度かはかわせたが、そのうち、スフィンクスもこっちの動きを憶えてきた。
 爪での連続攻撃を、その巨体の真下を転がってやり過ごそうとして、背中を後ろ脚で蹴飛ばされる形で一撃もらった。背中に爪が食い込んだのがわかる。
 運良く、爪は抜けたが、ぬかるんだ地面を転がって、すぐに立てなかった。「ぐ…っ」なんとか泥に手をつく。
 思ったより深くもらったのか、息が苦しい。声が…。クリスを、呼ばないと。クリスを…。

「くりす」

 もっと大きな声じゃないと。崖下のアイツまで届かない。
 ズン、とすぐ目の前に鋭い爪の脚が降ってきた。泥にまみれて見にくい視界を上げる。
 まるで、暗い空洞に赤い光を宿したような、そんな目をした人面の顔が、笑っている。口の端をつり上げて笑っている。獲物を仕留めたぞ。そういう顔をしている。

「クリス」

 まるで人間の女みたいに豊かな胸を反らせたスフィンクスが大きく息を吸い込む。
 その口から流れたのは声ではなく歌だ。耳にした瞬間思考が鈍くなってモヤがかかり、瞼が重くなる、魔力のこもった歌。

「くりす」

 バカの一つ憶えみたいに、俺はその名前を口にする。
 ラララ、と歌うスフィンクスの前で、哀れな獲物として首を掻き切られる前に、叫ぶ。

「クリスーーーーー!!」

 背中の痛みでついていた腕が折れた。体が重いせいもあって、泥の中に倒れてしまう。
 叫んだかいはあって、黒い塊が崖下から飛翔し、まっすぐこっちに突っ込んできた。
 歌い続けるスフィンクスの上機嫌に揺れる翼を両前脚で捕らえ、掴み、その巨体に真横から突進するようにして自分もろとも地面に突っ込む。

「グワァーッ!!」

 真っ黒な翼を広げて精一杯自分を大きく見せて俺の前にふんぞり返ったクリスの、せめて足手まといにはなるまいと、歌が途切れたことで少し軽くなった体でどうにか起き上がる。背中は、まだ痛い。が、そんなこと言ってる場合じゃない。
 突然現れたクリスが人間の俺を庇ったことが、スフィンクスはよほど気に入らなかったらしい。大きな口を開けて絶叫するスフィンクスの赤い目が忙しなく俺とクリスを交互に見ている。どっちからヤるか。そんな計算をしているように。
 自分より大きなスフィンクス相手だが、クリスは怯まず立ち向かった。スフィンクスにはない鋭い嘴を突き出し、とにかく突進する。スフィンクスより小さいからこそ小回りがきくその突進に、スフィンクスの人面顔が歪む。
 せめて援護しよう、と立ち上がり、咳き込みながら、ベストの裏からナイフを引き抜き、腰の毒瓶に気付いて栓を抜き、刃を突っ込む。
 クリスの動きを捉えて突進に突進で返したスフィンクスは、クリスに気を取られている。今なら。
 今持てる全ての力と集中力でもって、スフィンクスの後肢に狙いを定め、放つ。
 どす、という鈍い音と、スフィンクスの暗い双眸がギョロリとこっちを向くのは同時だった。
 吹き飛ばされて崖に叩きつけられたクリスが駆けつけるより早く、スフィンクスの突進が俺を撥ねるだろう。今の俺に避ける力はない。
 諦めた俺の視界に、ロープが見えた。…シーカーの。チェスターのロープだ。
 華麗なロープさばきでスフィンクスの背に飛び乗ったチェスターは、スフィンクスの首にダガーを叩き込んだ。流れるように無駄のない動作で。
 絶叫し翼をばたつかせ飛ぼうとするスフィンクスの首に次々と、本当に次々と、毒を仕込んだダガーが叩き込まれていく。
 5本目のダガーが深々とスフィンクスの喉に刺さったところでチェスターが振い落されて泥の地面を転がったが、結果は見えていた。「ァが…ガ、あ゛」そんな声で呻きながらよろつくスフィンクスに、さっきまでの力と勢いはない。

「今だっ、リノ! 崖下に突き落とせ!」
「、」

 言われて、クリスを見やる。痛そうに耳を下げてるが、血の出ている怪我は見られない。「クリス」呼べばぴょこんと顔を上げて後肢を引きずりながらもこっちにやってくる。

「スフィンクスに、とどめをさす」
「グぇ」
「俺の、真似を、しなさい」

 痛む体に鞭打って、なんとか走り出す。「これで…っ」ダガーを手に、よろけるスフィンクスにぶつかるようにして突き刺す。さらによろけたスフィンクスに、俺を追いかけてきたクリスが赤い目を鋭くしてスピードを上げ、恨めしそうにこっちを見下ろすスフィンクスに、全身全霊の体当たりをかました。

「これで、おわりだ」

 クリスの突進に踏みとどまれなかったスフィンクスは、崖から脚を踏み外し、飛ぶことなく落下した。
 恨めしそうな顔で裂けるかと思うくらいに口を開けて呪詛のような言葉を吐き出しながら、崖下の岩に背中から叩きつけられ、やがて動きを止めた。

「…、や、った」

 地面にへたり込んだ俺に、クリスが顔を寄せてくる。「よく、やったよ。クリス。本当に…」少し怪我もさせてしまった。後肢、大したことがないといいんだけど。
 ポン、と肩に置かれた手に顔を向けると良い顔をしたチェスターがいる。

「やったな! お手柄だぞ猛獣使い!」
「猛獣…なんですかソレ」
「話を通すのに都合よかったんで、お前はオレたちの助っ人『猛獣使いのリノ』ってことになってるんで、そこんとこヨロシク」
「…はぁ」

 猛獣、で表されているクリスの黒い頭を撫で回す。よしよし。本当によくやった。怖かったろうに。
 理想通りとはいかなかったけど、なんとか、仕事を終えることはできた。
 今頃になってブルブルと震えているクリスの頭を抱え込む。「よしよし。なんでも買ってやるよ。干し肉でもなんでも。な」「ぐぅ…」「もうスフィンクスはいない。終わったんだ」毛を逆立たせているクリスをなだめるため、何度も何度も黒い背中を撫でた。

「って、お前、背中からだいぶ血が出てんぞっ」
「…ああ、」

 そりゃあ、まぁまぁ深く抉られたので。そう返そうと顔を上げたとき、ふっと目の前が暗くなって、俺の意識は急速に暗闇へと落ちた。

 

 


 

 

ということで、ジンゲンの崖にいる『妖歌のローレライ』退治の回でした!
エリアリストのスポット情報によると『昔ジンゲンに甚大な被害を出したスフィンクス』と書かれているんですが、どのくらいの被害を出したんだろうなぁ。歴戦のスフィンクス…

というかかなりお久しぶりですみません!(´∀`;)

またぼちぼち更新していきます…!
あまりに遅かったらせっついてやってくださると幸い!

 

 

↑ 続きはこちら

 

アリスの小説応援! にポチッとしてもらえると励みになります❤(ӦvӦ。)

 

 にほんブログ村 ゲームブログへ