ブラックグリフィンの郵便屋さん⑥

 

 

このお話はDDONに出てくる敵ブラックグリフィンと少年を主体とした物語です!
ブラックグリフィンとはこんな魔物です ↓

これまでのお話がまだの方はこちらからどうぞ

 

そろそろ郵便屋以下略(

 


陽の光を目指す

 

 暗い小堂内で一人…この場合一匹か。一匹で待ってるのが嫌だったらしく、クリスは小堂の戸口から顔だけ覗かせて辺りを見回していた。
 キョロキョロと辺りを見回してはしゅんとしているクリスのもとまで、もう少しで帰れる。
 自分まで滑って川に転がり落ちないよう、足元を気にしながら一歩ずつ足元を確かめながら歩く。
 どこもかしこも、だいぶぬかるんでる。どこかで土砂崩れとか起きていそうだ。
 小堂の扉からくちばしを出しているクリスは、若干、耳がしょげて下を向いてる。降り続く雨にうんざりしているのか、俺がいないことを気にしてるのか。その両方か。
 土砂降りの雨の中とはいえ、リザードマンの鱗で多少は水を弾く外套を着ていったのに、やっぱりびしょ濡れになった。「あー」覚悟していたとはいえずぶ濡れだ…。ブーツも、晴れた日によく手入れをしなきゃ使い物にならないレベルだ。
 それで、雨の音の中から俺のぼやき声を聞き分けたらしいクリスがぴょこんと顔を上げて、たぶん、頭をぶつけた。「グアア」と痛そうに歪む声がしたから。
 ようやくたどり着いた小堂の扉の内側へ、クリスの顔を押し込みつつ入る。

「グエ!」
「はい、ただいま。ほら」

 予定より待たせたし、留守番よくできたな、の意味も込めて、風啼き亭で買ってきたりんごを懐から出すと、クリスの瞳がわかりやすく輝いた。
口を開けたクリスに、くちばしの中にりんごを入れて手を引っ込める。
 ……グリフィンの口の中って、案外とトゲトゲしい。何度見ても慣れないな。大なり小なり衝撃を受ける。最初見たときはちょっとビビったもんなぁ。
 外から見ると普通にくちばしなんだけど、肉だって食べるんだから、牙のないグリフィンはくちばしがギザギザになる、か。
 なんてことを考えながら、ビショビショになったリザードマン柄外套を脱いだ。「うわぁ…」本当にビッチョビチョ。小堂に吊るしてて乾くかな。
 降り続く雨のせいか、いつもより濃い沈んだ空気が支配する暗い小堂内を水音のするブーツで歩く。俺の後ろをカチャカチャと爪を鳴らしてクリスがついてくる。
 両開きの扉を開けようとして、思いとどまる。
 そうだよな、と口の中だけで呟いて、濡れているダガーのグリップに手をやる。
 俺の変化に、まだりんごをシャクシャクさせていたクリスがごくりと喉を鳴らして口の中を空にした。
 降り続く雨。水。
 ………水は色々なものを連れてくる。
 三途の川、なんて言うくらいには、水は『終』に近い。適量は人にも大地にも恵みになるが、過ぎれば毒だ。「…油断するなよ」澱んだ竜力と合わさってろくでもないものがこの中にいる。それを始末しないと、俺たちはゆっくりもできない。
 俺が扉に手をかけるより早く、クリスが「グエーッ!」と声を上げながら扉に突進するようにして中に入っていった。「クリスっ」慌てて中に滑り込む。血気盛んなのはいいけど油断しないように!
 中はやはり薄暗い。密室空間での酸素のことを気にして普段は火を消しているせいで、小堂でも最奥であるこの場所は真っ暗だった。
 闇に埋もれた小堂の、水の気配が濃く溜まっている床に、べちょ、と粘着性のある何かが発する音がした。「クリス」何かいないかとぐるぐる歩き回っているクリスは足元に気付いていない。自分が踏んでいるものに。「クリス」大きめの声で呼ぶと、クリスがようやく俺のもとに帰ってくる。
 クリスの足に踏んづけられて散らばったのは、泥だった。
 いや、泥のように見える、動くモノ。
 べちゃ、べちょ、と音を立てて泥が動く。床の底の地面から這い出してきて形を取る。人のような顔に、二足歩行で直立し、泥を垂らす腕を振る。その姿が、まるで太った裸のおっさんが酔って腕を振り回してるように見えて…泥っぽい何かからできてるくせに、イヤに生き物臭い。

(うわぁ、苦手なやつ……)

 切っても切れなさそうな相手だ。どうする?
 べちゃ、と音を立てて二足歩行でよろけながらも歩いてくる相手に、クリスが突進をかます。まぁまぁ大きくなってきたクリスが本気でぶつかれば、泥の人形の片腕と頭が吹っ飛んで床に落ちた。
 クリスに続いて一歩踏み出して、残っていた腕をダガーで薙いでみる。
 手応えがないわけじゃないけど。俺の力ではコイツにダメージは入らなそうだ。
 うーん、これをどうにかするのは俺とクリスじゃ向かなそうだな。俺はダガーで切るしか能がないし、クリスも突進とか爪の一撃とか、物理技が得意で、たとえばこの泥を完全に凍らせて動きを止めるみたいな魔法の芸当はできない。

「…しょうがない。クリス、出るぞ」
「グエ?」
「俺とお前じゃ相性が悪い。晴れれば自然と消えるだろうから、それまでここにいさせとこう」

 決心は早い。何せ今は、頼る先が一つだけある。
 動きの遅い泥人形を横目に、いつでも移動できるようにとまとめてある荷物を掴んで両開きの扉を押し開ける。
 小堂の外目指して水の気配ばかりする薄暗い回廊を走り抜け、さっき脱いだばかりの濡れそぼった外套を羽織って、俺を追って外に出てきたクリスを叩く。「あっちへ行こう。乗せて」あっち、と指したのは、対岸にある崖だ。この雨じゃ景色が白んで何も見えないけど、あっちにチェスターが住んでる小屋があるらしい。事情を話してちょっと雨宿りさせてもらおう。

 

 


 

 

 ようやく雨が止んだ曇のその日、チェスターの手伝いでクリスに乗ってジンゲンの各地を調査し、地図に土砂崩れの箇所を書き込んで回った。
 これもチェスターの雑用の仕事の一つらしいんだけど、居候させてもらっているお礼、というやつだ。クリスに乗って飛んで回った方が早く終わるし。
 なんだかんだと面倒見のいいチェスターは、雨宿りの寝床を貸してくれるだけでなく、飯まで用意してくれた。今のところ、家の中にクリスを入れても驚きも怖がりもしない。ただ、「おー思ったより小さいな! 遠目じゃもっとデカく見えたんだがな~」と笑っていただけ。
 みんながみんな、チェスターみたいにクリスを受け入れてくれれば、俺ももう少し気が楽なんだけど。
 調査を終わらせて崖の小屋までクリスに跨って戻ると、「お疲れ~」と屋根の上で手を振るチェスターが見えた。
 クリスが乗ると壊れそうな屋根は避けて地面に降りてもらい、まだぬかるんでいる地面に乾いてないブーツで立つ。

「調査、終わりましたよ」

 預けられた地図を返すと、受け取ったチェスターが書き込みを見てふんふんと頷く。「サンキュー。これをジンゲンの掲示板に貼っとけば、みんな迂回するだろ」地図を丸めて懐にしまう。「屋根で何してたんですか」「いやぁ、最後の方ちょっと雨漏りしてたじゃん? 補強とか見直しをな」「ああ…」スヤスヤ眠ってたクリスが落ちてきた雨粒に飛び上がって起きてたっけ。
そのクリスが、眠そうに目を閉じたり開けたりしていたと思ったら、弾かれたように空を見上げた。「…?」その視線の先を追ってみる。
 あれは…ハーピーか。やけに数が多い。
 人間のような顔と歌声でこちらを眠らせてくる厄介な魔物、ハーピー。それが十や二十じゃなく、もっと大群で空を横切っている。…ここよりさらに上の山の方に向かってる?
 渋い顔でハーピーの群れを睨んでいたチェスターが「戻ってきたな」とぼやく。「親玉が?」ぼやき返した俺に浅く頷くチェスター。「そ。あんなにハーピーを連れてきやがった」悠々と、まるで自分に敵は何もいないとでも言うかのように、ハーピーが通り過ぎた空を藍色の美しい翼を生やした獅子の巨体が行く。
 全身の黒い羽根やら毛やらを逆立てて警戒しているクリスの首をそっと撫でる。
 …全然大きさが違う。お前は子供で、相手は大人。戦えと言っても、この様子じゃ、無理だろう。カチコチに固まってる。こんなカチコチで向かっていったって、相手に舐められるのがオチだ。

(そんなクリスが、一生懸命になるときがあるとすれば…俺が危なくなったときだ)

 まず、俺が危険を顧みず飛び出す。そこでスフィンクスの気を引く。次に、俺を追ってクリスが飛び出す。それでスフィンクスの気をさらに引く。そこへチェスターが…。
 でも、この手下のハーピーの数は想定外だ。こんなにハーピーがいたらスフィンクスに俺たちのことを知らせる存在だって出てくるかもしれない。まずハーピーをある程度は片付けないと。でもどうする? 俺は弓は得意じゃないし…。
 考えていると、チェスターが仕方なさそうに肩を竦めた。「あの数のハーピーだ。あんまり頼りたかないが、先に掃除が必要だろう。白騎団のギブソンに話つけとくわ」白騎団。ジンゲンに在中してる騎士団のことか。「…クリスのことは?」彼らが手伝うのは問題ないとして、クリスのことが気がかりだ。「まぁ任せろって。うまーく話しとくから」チェスターはウインクしてみせると、さっそく崖を降りて村に行く準備を始めた。

 ヒョイヒョイと慣れた感じで崖を降りていったチェスターを見送って、家に入る。「クリス」クリスはまだスフィンクスが消えた方角を見上げていたけど、俺が呼ぶとようやく上向いていた顔をこっちに戻し、戸口に体を捩じ込むようにして中に入った。
 ブーツを脱いで暖炉の前、燃えない辺りに逆さに置いておく。
 ダガーの手入れ道具一式を広げ、炎の煌めきを反射する刀身に乾いた布を当てる。よく切れるように研いておかないと。

(このまま、すべて、うまくいくだろうか)

 自慢じゃないけど、俺の人生はうまくいかないことの方が多かった。今更人生うまくいく、なんて楽観的なことは思えない。
 でも。

「グエぇ」

 ダガーの手入れをしてるっていうのに頭を擦り寄せてきたクリスに、諦めて刃を置いた。「…ほら」あぐらをかいた腿をぽんと叩くと、床にゴロンと転がったクリスが俺の足に頭がのるようにもぞもぞしながら、ここだ、と思う位置を見つけて動かなくなった。
 俺が抱えないとならないくらいに大きくなった頭に手を置いて撫でてやる。…満足そうだなぁ。
 できれば、陽の当たるあたたかい場所で、こうやって甘やかしてやりたいんだけど。今のところ逃げるように陽の光から隠れているばかりで、クリスには申し訳ないと思ってる。
 スフィンクス退治がうまくいけば、きっと何か変わる。少しだけでも、変化が訪れる。良い変化が。…そう信じたい。

 

 


 

 

郵便屋さん要素…(白目
次はいよいよジンゲンのスフィンクスこと妖歌のローレライを倒すぞ~!

小ネタ

・クリスたちが厄介になったチェスターの小屋

階段の先にちょっと広い空間がある。クリスとリノはここを間借りしている

誰かにとって参考になるかもしれない小ネタでした( ˘ω˘ )

 

アリスの小説応援! にポチッとしてもらえると励みになります❤(ӦvӦ。)

 

 にほんブログ村 ゲームブログへ