アニリン②
このお話は、DDONのフィンダム大陸に出てくる敵『グリーンガーディアン』と少女を主体にしたお話です!
グリーンガーディアンはこんな魔物です↓
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何話か続けていく予定です。 え? 需要? ……(´・ω・`)
色の無い凶器と狂気の化合物
衝撃的なモノを見て以来、オレはエスリグ村を注意深く観察するようになった。
あのとき大人に囲まれ気絶するまで殴られていた、傷が多いあの子供は、アニリン、という名前らしい。この小さな村で唯一の子供だ。
「アニリン! 水汲みに行ってきな!」
だが、その日も、アニリンは大人に無理難題を強いられていた。
昨日はカゴいっぱいのきのこ採り。その前は村中の草むしり。その前は村の建物中の掃除。
失敗すれば平手打ちを始め、暴力にさらされる。アニリンにはまた傷が増えた。
たとえ命じられたことをこなそうとも、褒められることなどない。やれて当たり前だ、という顔をされるだけ。
アニリンはまだ子供だというのに、今日は大人でも抱えるほどのツボを押し付けられた。それで水を汲んでこい、というのだ。
大人は無茶なことを言っている。だが、他の大人は誰もそのことを指摘しない。
小さく「はい」と答えたアニリンは、一度俯き、何か言おうとして…結局何も言わず、無言でなんとかツボを持ち上げ、よろけながら歩き出した。
空のツボでもこうなのだ。水を汲めたとして、それを持ち帰れるとは思えない。
それに、川までの道のりは、ピクシーが集まるキャンプのそばを通らなければならない。ツボを抱えた無防備な子供が一人で行く場所ではない。
ゴホ、と咳き込みながら歩くアニリンの後ろを、村の大人は無表情で見ていた。
オレは、茂みから茂みへ歩くようにしながらこっそり後をつけた。アニリンはツボを落とさないよう抱えて歩くことに集中していて、オレのことなど気が付かない様子だ。
問題の箇所に通りかかったが、幸い、ピクシー達は今日の天気の良さにつられて昼寝をしていた。アニリンは注意深く進んでいる。このまま、下手をしなければ、無事ピクシーのキャンプを抜けられるだろう。
だが……まだ子供のアニリンだ。懸命にツボを抱えていたが、腕の力が尽きたのか、アニリンはツボを落としてしまった。
ガシャン、と乾いた音がこだまし、アニリンの傷の絶えない顔を絶望が覆った。
最悪なことに、ツボの割れた音にピクシーどもが跳ね起き、各々武器を手に取り始めた。ツボの残骸を拾い集めているアニリンをさして喚き散らしている。
(どうする)
たった一人のアニリンだ。子供だ。おまけに武器も持っていない。逃げ足にも期待できない。このままではピクシーどもの餌食にされてしまうだろう。
ピクシーどもに喰わせるくらいなら……オレだって肉を喰いたい。もうずいぶんときのこと草しか食べていない。噛みごたえのあるものを食べたい。腹が減っている。
ピクシーどもがアニリンを襲撃する態勢を整えたとき、オレは、遠吠えをした。仲間を呼ぶときの遠吠えだ。獲物を見つけた、こっちだ、という合図。
オレに仲間はいない。だが、ピクシーどもを警戒させることには成功した。今にも崖から滑り降りてアニリンに飛びかからんとしていたピクシーが思いとどまったように武器を構えて辺りを見回している。
未だツボの破片を集めているアニリンめがけて、茂みを飛び出す。仲間の合図でやってきた一人のグリーンガーディアン。そんな風体を装って。
肉薄するオレに、だが、アニリンは無頓着だ。表情のない顔でツボの破片を集めている。
(きっとこの子供はすべてに絶望している。生まれてこの方、大切にされたことがない。そういうものを知らない。かわいそうな子供なのだろう)
自然と思い出したのは、自分が生まれ育った群れのことだ。正しく生まれ、正しく育ち、笑い、泣き、喧嘩し、最後には去った群れのことだ。
首を咬もうと思っていたのに、オレが咬んだのはアニリンの粗末な服だった。
ずるずるとアニリンを引きずって茂みの中に潜り、一人、遠吠え劇をする。
こっちだ、捕まえた。
よくやった、今行く。
そんな感じの遠吠えのやり取りの一人芝居をし、抵抗しないアニリンを片角で持ち上げ背中に放り投げた。その体は軽かった。
ピクシーどもはまだ警戒しているが、じきウソに気づく。その前にさっさと離れなくては。
幸い、オレの方が足が速い。ピクシーくらいは振り切れる。
アニリンは背中で大人しくしていたので、体が重い状態だったが、苦労せずあの場を駆け抜け離脱することに成功した。
だが、どうしたものか。
そもそも、オレはなぜアニリンを助けたのか。ピクシーにやるくらいならオレが、と思ったんじゃなかったか。肉が喰いたいんじゃなかったか。
思案しながら歩いていると、エスリグ村が視認できる位置に来ていた。そこで、アニリンがオレの背中から滑り落ちてドテッと音を立てる。
砂にまみれ咳き込みながら起き上がった、その表情は、子供にあるまじき暗いものだ。
「……たすけた、の?」
アニリンは、ぽつぽつとした雨粒のような小さな声でオレにそう言葉を投げる。視線は地面に固定したまま、「いいのに。だって、しねって、みおくられたんだから」そうこぼしてアニリンは崖の上にある村を見上げる。
「くちべらし、しってる? あのむらに、わたしは、じゃまなの」
アニリンは何かを言っているが、オレはまだ人の言葉は理解できない。「やくにたたないこどもは、いらないの。だから、まものに、たべさせるんだよ」よろけながら立ち上がったアニリンは、せっかく逃してやったというのに、今来た道を戻ろうとするではないか。慌てて服の裾を噛んだ。バカかお前は。あっちに行ったら血眼のピクシーどもの餌食だぞ。わかってるのか。
オレが服を離さずにいると、アニリンは諦めたように座り込んだ。そして、枝のように細い手がこちらに伸びる。
「それとも、あなたが、わたしを、たべる…?」
アニリンが何を言っているのかはわからない。オレにはまだわからない。だが、放っておけばピクシーのもとへ向かおうとするこのバカな子供を離すわけにはいかない。……だからといって、あの村にアニリンを戻す気にもなれない。どうしたものか。
ポッキリと折ることも簡単な細い指のついた手に鼻を押し付ける。
弾力はないが、肉だ。目の前に肉がある。オレの腹を満たせるものだ。ずいぶんと久しぶりの、肉だ。
(これは肉だ。ピクシーにやるくらいならオレが。オレが……)
たとえば、ここでオレがその手に咬みつき喰いちぎっても、この子供は逃げないだろう。逃げもせず、悲鳴も上げず、じっとされるがままでいるんだろう。
その光景が容易に想像でき、気に入らないな、と思った。
誰しもが懸命に生きている中で、生きることを諦めるほどの環境で育った人の子。
オレは角を失い、一人で生きていかねばならなくなったが、それでも生を諦めようなどとは思わなかったものだ。
それはオレが正しく生まれ、正しく育ち、正しく生かされたからであり……この子供はきっとどれ一つとしてまともな経験がないのだ。だから、もう生きるのをやめよう、と思うのだ。しんどいだけだと。辛いだけだと。悲しいだけだと。寂しいだけだと。救いなどどこにもないと。この子供は諦めている。
光を知らないその瞳に、そんなことはない、と教えたい。今からだって生きることはできる、と言いたい。
オレは、アニリンの小さな手に咬みつかなかった。カサついているその手のひらをベロンと舐めただけだ。
首を傾げたアニリンを角ですくい上げ、背中に落とす。
さあ、これから大変だぞ。なにせ、グリーンガーディアンと人の子が暮らしていける場所を探さなくてはならないのだ。一人彷徨っていたときとはわけが違う。道は困難を極めるだろう。
だが、やらなくては。
かわいそうな子供を、かわいそうなままで終わらせないために。
DDONのメインストーリーでフィンダム大陸の話になったとき、ロイグ、いましたよね。メインストーリーにも結構関係してきたロイグ
最後の方とかロイグパレード的なところあったと思うんですけど、今回はそこらへんのことを拾っています
フィンダムは文化レベルがそう高くない大陸なので、病気に対する考え方が宗教的なところがありましたよね。病気になるのは自業自得的なね。で、ロイグもそれでいい思いをしてこなかったわけで……
というアレやコレやを拾って含めてみた感じのアニリンちゃん! 病弱な女の子です!
いろいろ頑張れ、グリーンガーディアン…!
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