アニリン③

2019年2月5日

 

このお話は、DDONのフィンダム大陸に出てくる敵グリーンガーディアンと少女を主体にしたお話です!

グリーンガーディアンはこんな魔物です↓

今回で3話めなので、「まだ他の話読んでない!」という方は以下からどうぞヽ(´ー`)ノ

 

何話か続けていく予定です。需要が…あるといいんだけどなぁ(´・ω・`)

 


異臭に気づいた手遅れだったとう①

 

 あんたさえいなければ。それが母の口癖だった。
 母は、キレイな人だった。わたしと違って、傷一つない白い肌で、わたしと違って、サラサラで艶のある長い髪をしていた。
 記憶の中の母は『キレイな人だった』はずなのに、その顔はのっぺらぼうで、真っ白だ。
 その人は小さなわたしにいつも言った。あんたさえいなければ、と。
 言葉だけでなく、時には、首に、手をかけられた。あんたさえいなければ。呪いの言葉のようにそう吐きながら、その人は何度となくわたしの首に両手をかけた。絞め上げられたことも、一度や二度じゃない。
 わたしの首を絞め上げた母は、その度に我に返り、咳き込むわたしと自分の手のひらを見比べて、泣いていた。

 あんたさえいなければ

 その言葉が口癖の母は、キレイな人だったので、男の人に人気だった。とても人気だった。
 だから、一夜の間違いで、わたしができてしまった。
 望まず母親となった母は、わたしを疎んだ。子供ができてしまったことで、母はそれまでの生活を変えねばならなくなった。好きに生きることができなくなった。それは、きっと、自由な母にはものすごい苦痛だったのだろう。だからわたしを呪い、あんたさえいなければ、と呪い続けて………ついに、村から消えてしまった。
 一日たっても母が戻らなかったその日。わたしは母に捨てられたのだ、とすぐに気がついた。
 わたしがいなくならないから……母がいなくなったのだ。母はわたしがいない場所へと行ってしまった。
 その日の空はよく晴れていて、花のにおいのする風が吹いていた。
 まるで平和そのものの風景なのに……わたしの心はがらんどうだったことを、今でもよく憶えている。

 

 ぱたぱたという水の音で薄く目を開けると、雨が降っていた。
 もそり、と起き上がると、体からパラパラと木の葉が落ちていった。「…?」わたしの体を覆うようにかけられている木の葉を手のひらですくう。
 眠ったときは…確か、この継ぎ接ぎの布一枚みたいな服を布団がわりに、しっかり抱きしめながら、眠った気がする。寒かった、気がする。じゃあ、この木の葉は…? また、あの子の仕業、だろうか。
 ゴホ、ゴホ、と軋む胸で咳をしながら起き上がる。…あの子がいない。
 あの子っていうのは、片方しか角のない、グリーンガーディアンという魔物のことだ。名前がわからないから、あの子。
 木の虚の外は雨だ。それでも顔を出してみる。左右、上。どこにもあの子の姿はない。雨なのに、どこへ行ったのだろう。
 雨の音を聞きながらぼんやりしていると、夢のことを思い出した。もう顔も思い出せない母のこと。わたしに一枚布のような服を被せ、暴力のあとを外から隠しながら、殴る蹴るを繰り返した大人達のこと。
 母も、エスリグ村の人達も、みんな、わたしが邪魔だったのに。だから、わたしは、望まれるままに消えようと思っていたのに。なぜかまだ生きている。
 これまでのことがなんとなく思い出されて……嫌だなぁ、痛いなぁ、なんて思っていると、遠くでガサリと草が動いた。魔物か、動物か。眺めていると、見覚えのある片角が見えた。あの子だ。
 あの子は、ずり、ずり、と大きなものを引きずりながらこっちにやってくる。

「わぁ……」

 あの子はメスの鹿を仕留めたらしく、首を咬んで引きずっていた。
 鹿は、村でも重宝されていた。わたしは食べることを許されなかったけど、出がらしのスープをもらったことがある。野菜やきのこだけのスープより、ずっとおいしかったことを舌が憶えている。
 虚まで鹿を引きずってきたあの子は、疲れた、とでも言いたげに鹿から口を離した。雨で濡れた体をブンブンとふるうので、こっちにまで水滴が飛んでくる。冷たい。
 わたしは動かない鹿を眺めて、虚の中を振り返る。
 ここに調理器具なんてない。包丁も、鍋も、火を起こすのだって難しそうだ。
 あの村でさばくことは何度もやらされたし、失敗すればその度に殴られたから、嫌でも憶えた。嫌な思い出が役立とうとしているのに、道具がないなんて、皮肉だ。
 とにかく、他の魔物に見つかって横取りされる前にと、あの子と一緒に鹿を虚の中に引きずり入れた。
 鹿が一匹、わたし、グリーンガーディアンのあの子。それだけでもうこの場所はいっぱいいっぱいだ。とても、獣臭い。
 あの子はさっそく鹿に食らいついて、首の部分を食いちぎった。それで、そのちぎったものをわたしの前に置くから、わたしは困惑してしまった。
 くれる…のだろうけど。人は、鹿は、生では食べられない。お腹を壊してしまうし、病気をもらってしまうこともある。

「だめ、だよ。なまは、だめ」

 言葉が通じるとは思わないので、首を振ってみる。魔物のあの子には、きっと通じないけど。でも、この子が、わたしを生かそうとしていることはわかる。…それがどうしてなのかは、わからないけど。
 わたしは少し考えた。
 …確か、そこに、大きめの村があったはず。雨だから、外に出ている人は少ないだろう。予備の調理器具とか、ハーブとか…外に置いてあるものを頂戴することはできそうだ。

「あのね」

 鹿の腹部に喰らいついていたあの子がチラリとこっちを見る。「さかなも、おにくも、ひとは、ひをとおさないと、たべられないの」言葉が通じるとは思えなくて、木の枝で地面に絵を描いた。魚。鹿。その下に火。それから、魚とお肉を食べる人の絵。「だから、ちょうりきぐとか、どうぐを、とってくる」お鍋と、包丁を描く。それを使って魚と鹿をバラバラにする人の姿も描く。
 とってくる。それはつまり、泥棒、ってことなのだけど…。
 わたし、ただでさえ病気持ちの悪い子なのに、さらに悪い子になろうとしているんだなぁ。
 でも。ねぇ。誰も助けてくれないなら、自分で自分を助けるしか、ないよね?
 待っていても、誰も助けてくれなかった。この子以外。なら、わたしは、自分で自分を助けるしかないよね?
 わたしが虚の外へ行こうとすると、あの子が止めてきた。虚の入り口に立って角で私を小突いて、中に戻そうとする。「だいじょうぶだよ…」そう言ったところであの子はやめないし、退かない。
 困ったなぁ。せっかくの鹿でも、このままじゃ、わたしは食べられない。
 わたしもあの子も譲らずにいると、あの子も何か感じるところがあったのか、通せん坊をやめて、外に出たわたしについてきた。
 冷たい雨をよく吸う一枚布の服はとても寒くて、ゴホ、と口から咳が漏れる。今日はとくに、胸が苦しい。でも、頑張らないと。
 咳き込みながら、大きめの村に着いた。雨だから人の姿は見えない。みんな家の中なんだろう。
 どこかであたたかく笑う声がして、なんとなく、悲しくなりながら、わたしは家々を見て回った。
 何かの修理なのか、研ぎかけの刃が屋根の下にいくつか置いてあって、それを全部、破いた服でくるんで包んだ。それを茂みの中でじっとしている賢いあの子のもとへ持っていくと、くわえてくれた。わかってくれている。賢い子だ。
 同じ要領で、修理しようとしていたんだろう、取っ手のとれたお鍋を持つ。ヒビの入った木の食器も。外に吊るして干してあったハーブも。きのこも。
 こんな雨の中でも見回りをしている男の人を見つけて、とっさにしゃがんで……這うようにして、あの子のいる茂みに戻った。

「かえろ」

 あの子には、わたしが何をしていたのか、よくわからないと思う。でも、ごわごわした苔の生えた背中に跨ると、人里をまっすぐに離れてくれた。…賢い子だ。
 虚に戻ったわたしは、濡れた服を脱いで、虚の内側の出っ張りに引っかけた。
 あまり切れない刃で頑張って鹿をさばいて、体力を使い果たすくらいに頑張って火を起こして、枝に刺した鹿の肉を焼いていく。
 今日が雨でよかった。虚の中でも火事の心配をしないで、なんとか火を起こせる。
 焼けた鹿の肉をつまみながら、火の上に鍋を置いて、割れたツボにためてある水を入れて、食べられない鹿の骨や筋の肉、きのこなどを入れて、ハーブと一緒に煮込んだ。
 体力を使い果たして完成したスープは、限られた素材で作ったわりにはおいしく感じた。

「…たべてみる?」

 グリーンガーディアンのあの子には、焼いたものはおいしく感じないだろうけど。スープならどうだろうか。
 冷めてきたスープを入れた木の器を置くと、フンフン、と鼻を鳴らしたあの子が、口をつけた。最初はペロペロ舐めていたのが、そのうちごくごくと飲むようになって、きのこも、筋の多い硬い肉も全部食べて、あっという間の空にしてしまった。
 味付けがハーブだけだから、魔物でも、あんまり違和感のない味だったのかもしれない。わたしは、塩とか、欲しいなって思ったけど。
 食事をして少し体力が回復したから、咳き込みながら、鹿の解体を頑張って、お肉を蔦で縛って、虚の中に吊るしていく。そのまま地面に置いておいたら虫が湧いてしまうから、こうして干しておけば、干し肉に、なるかもしれないし。
 わたしの作業を、あの子は不思議そうに見ていた。
 解体作業が終わって、食べられない部分以外を有効活用できたな、と思ったとき、フラついて、木の葉の山に尻もちをついた。
 そろそろ体力が限界みたい。わたし、ダメな子だなぁ。
 火が小さくなってきたせいだろう。服を着ていないから寒くなってきた。
 木の葉の中に潜り込んでも、寒い。困った。咳が止まらない。
 ゴホ、ゴホ、と咳き込み続けるわたしに、のそりと起き上がって、あの子がそばにやって来た。まるでわたしが凍えているのがわかっているみたいに体を寄せてくれる。
 …鹿を生で食べた口は獣臭い。苔の生えた背中からは草や木のにおいがする。

(でも、あたたかい)

 急に眠くなってきた。この子があたたかいせいかな…。
 言葉が通じる人とは、うまくいかなかったのに。言葉の通じない君とは、仲良くできるなんて。なんだか、かなしい、ね。

 

 


 

 

順調に? 交流を重ねるアニリンちゃんとグリーンガーディアンの回
割り切るアニリンちゃん。一生懸命、グリーンガーディアン。そんな感じ( ˘ω˘ )

 

 

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