アニリン①

2019年2月5日

 

出だしから暗めになっていますが、これは一人の少女と一匹のグリーンガーディアンがささやかなハッピーエンドを目指すお話です…!

ちなみにグリーンガーディアンはコイツです↓

みんな嫌いなイヌッコロの緑&草バージョン\(^o^)/

何話か続けていく予定です! 需要? 知らぬ(´・ω・`)

 


かしたのはだったね

 

 その日は嵐だった。
 大粒の雨が地面を叩きつけ、空の暗雲には光が走り、気まぐれに落雷を繰り返す。
 落雷が命中した木が倒れ、降り続く雨に川は増水するばかり。
 ゴウゴウと騒音のような音と泥水を撒き散らす川を眺めながら、このままではここを捨てなければならないだろう、と考える。
 この縄張りをできる限り守ろうと努力してきたが、ここまでだ。川が決壊してからではすべてが飲み込まれてしまう。急ぎ、避難しなくては。
 川の増水のぐあいを見張るよう言いつけられていたオレは、リーダーのもとへ走って川のことを報せた。立派な二本角を持つリーダーの決断は早く、女子供を守りながら、ここより高い丘に避難することになった。
 こんな嵐でも、ピクシーどもは目が合えば木製の武器を振り上げ襲ってくる。女子供を守りながらの丘への道は簡単ではない。
 男が角を向けて威嚇すれば、ピクシーどもはそれ以上こちらに寄ってこない。だが、奴らの狙いは分かっている。油断はできない。ピクシーどもは、まだ小さな角しか持たない子供と、体格と角の小さい女を狙っているのだ。

『先に行って、丘が安全か見てこい』

 リーダーにそう言われ、その命令に従ってオレは群れを離れた。
 リーダーは女子供を先に安全な場所に誘導し、それからピクシーを追い払おうと考えている。守りながら戦うのは、数で群がってくるピクシー相手には賢くないだろう。オレもその考えに賛成だった。
 ぬかるんで泥の塊のようになっている地面を踏みつけ、群れから離れて、若くて速いオレが丘を目指す。
 一分ほど走り続けて見つけたお目当ての丘の、泥にまみれた草を踏みしめ、辺りを見回す。…ピクシーもいない。先客もいないようだ。この木の下に女子供を避難させれば我々は戦いやすいだろう。
 さっそくリーダーに知らせよう、と思ったとき、パリッ、と嫌な音がした。雷の音だ。
 オレが振り返るのと、雨宿りにちょうどいい、と思っていた木に雷が落ちるのは同時だった。轟音とともに視界が真っ白に染まる。しまった。目を閉じているべきだった。
 続けて、バキバキ、と木が折れる嫌な音がした。だが、視界が白く飛んでしまっていて、何も見えない。落雷に打たれた木が倒れる。それはわかる。だが。
 白く飛んだままの視界で動けずにいると、頭に、衝撃があった。抗うことができず、頭にのしかかってくる重さのまま倒れ込む。
 ……泥にまみれた視界がようやくもとに戻った頃。少し向こうの方に、泥に沈むようにして、見慣れたものが落ちていた。

(アレは………)

 木の下敷きになったまま、オレは為す術なくソレを眺めた。
 川で、水たまりで、映る自分の姿。そのたびに自然と確認する、自分の角。アレは、ソレだ。

 

 


 

 

 嵐のようなその日を境に、世界が、変わった。生きる世界が。
 グリーンガーディアンと呼ばれる自分達にとって、角は重要な役割を果たしている。
 戦うためだけではない。群れのリーダーを決めるとき、女を取り合うとき。すべては角が基準になる。角を打ち付け合い、どちらが立派かを競い合う。
 角はグリーンガーディアンにとってなくてはならないものだ。
 オレは、それを失くした。
 角の左側を根本からポッキリと折ったオレは、倒木によってできた傷が癒えた頃、群れから追放された。『角なしがいては他の群れから舐められる』というのが理由だった。それはそうだと、オレは大人しく群れを去った。
 たとえばここで自分から去る道を選ばないなら、動けなくなるまで痛みつけられてから放置されるだけだとわかっていた。それなら、去るより、道はない。むしろ、傷が癒えるまで、よく面倒を見てくれたと感謝すべきだろう。
 角なしになったオレを受け入れるような群れはない。
 ならば、オレは、一人で生きなくてはならないだろう。
 一ヶ月、片方の角だけを生やした状態で彷徨ったが、オレが落ち着けるような場所はなかなかなかった。たった一匹でウロウロしているグリーンガーディアン。しかも、片方の角がない。標的にはなれど、恐れられる理由はない。
 結局、人里近い巨木の虚に潜り込み、そこでひっそりと生活することにした。
 人の生活に近い場所というのは、同族は避けたがる。人に近い場所に住むということは、人、家畜以外の生物は遠ざけられるが、見つかった場合のリスクがあまりに高いからだ。最悪、命を落としかねない。
 だが、たった一匹となったオレに、選択肢はない。

 

 人里近くできのこなどを食べながらひっそりとした暮らしをしているうちに、知ったことがある。
 オレがひっそりと身を寄せているそこは『エスリグ村』というらしい。
 エスリグ村は小さい。大きな家が崖上に1つ。小さな家がいくつか。たったそれだけの村だ。崖の上という立地は悪くないが、その条件のために建てられる家が限られている。
 いつものように草やきのこを腹に入れ、木の虚でひっそりとしていたある日。ギャア、というカエルが潰れるような声を聞いた。
 パタン、と耳を動かして顔を上げる。
 ……カエル。のようだったが。カエルではない。ここに来てからオレは人の声に慣れてきた。これは、カエルの声ではない。人の声だ。人が出す、潰れた声。

「どうしてお前はそうなんだ! このグズめ!」

 すぐそこの建物からだった。人がそう多く出入りしない、倉庫、と呼ばれている小さな建物。その中から声がしていた。ごめんなさい、ごめんなさい、とすすり泣く声が。
 あの建物から食べ物をちょうだいできないか、と考えていたときに、見つけた天窓。オレには小さすぎて侵入などとてもできないが、そこから中を覗き見ることはできるだろう。
 ひっそりと移動し崖を登り始めたオレの耳には、声が聞こえている。

「そういうところがグズなんだ! 謝れば許してもらえるとでも思ってるのか!? お前が役立たずなせいで、タダ飯ぐらいを抱えてるんだよ、ウチの村は!」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「生まれつき体が弱い? それがどうした。言い訳にしかならん。病を持って生まれたのなら、それがお前の宿命だ。その尻拭いを俺たちにさせるんじゃない!」
「ごめんなさい。ごめんなさい…っ」

 ようやく天窓から中が覗けそうな崖上にやってきたオレは、目を見張った。
 小さな建物の中には、想像以上の人がいた。みな大人だ。大人が、一人の子供を囲っている。
 子供は大人に囲まれて小さくなってすすり泣いているが、その子供を、容赦なく、大人が蹴り上げた。積まれていた藁の山にぶつかった子供を、別の大人が殴り倒す。また別の大人が、今度は子供の腕を踏みつける。

 ごめんなさい。
 痛い。

 子供がそう繰り返し、暴力の嵐に耐えきれず気を失って、ようやく、大人達は拳を振り上げるのをやめた。
 オレは自分が見た光景が信じられず、その場に立ち尽くしてしまった。

(なんだ。今のは)

 まるで何事もなかったかのように倉庫を出ていく大人達。
 気絶した子供は当然のように建物に置き去りにされている。手当てもされずに。
 よく見ると、子供の体のあちらこちらに、顔にも、紫色の痣や傷がある。今日のものばかりではない。古く、消えそうな傷もある。あの子供は何度もこうして大人に暴力を振るわれている…。

(なんだ。コレは)

 オレは、自分が育った群れを思い出していた。生まれ、育ち、追放された群れを。
 仲間うちで喧嘩をすることはあれど、理不尽な暴力など存在しなかった。角が折れたことで追い出されはしたが、それは仕方がないことだと納得していた。
 そうとも。オレが生まれ育ったあの群れは正しく生きていた。
 だが、コレは、なんだろう。
 人は、オレ達より文化的な存在だと聞いている。
 自分達が住まう場所を洞窟や木の虚にせず、建物を作り、家畜を飼い、火を操り、道具を使い、獣を狩る。花を育てる喜びを知っており、精霊竜を讃えている。…そういう生き物だと思っていた。今この瞬間までは。

 

 


 

 

少女とグリーンガーディアンのお話の予定が、少女はほぼでてこない話になりましたΣ(´∀`;)
小説内で出した『エスリグ村』は、ゲーム中にフィンダム大陸に行った頃にはすでに廃村になっている村です。侵蝕された人もウロウロしてましたね…。エリアでいうとモルフォールになります
廃村がどんな村だったのか、なんてのはアリスの妄想ですので、実際のエスリグがどうだったのかはわかりませんのでご容赦ください(´・ω・`)

 

 

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